1.前回までの記事の概要
前回までの私の記事では、中小企業の経営者が後継者に経営権を承継させる手段として、主に民法上の手段である株式の売買や生前贈与、遺言があり、それにより遺留分減殺請求等の問題が起こることをご紹介しました。 今回は、後継者に経営権を承継させる上で、会社法上の諸制度がいかに利用できるかについてご紹介致します。
2.自社株を分散承継してしまうと・・・
経営権を後継者に円滑に引き継ぐには、先代経営者が有する自社株を後継者に集中的に承継させることが不可欠です。もし、自社株を分散して承継してしまった場合、再度後継者に自社株を集中させることは困難が伴います。
例えば、後継者が他の株主から買い取ろうとしても、そもそも他の株主が応じてくれるか分かりませんし、代金についても合意をしてもらわねばなりません。また、会社が、新株を発行して後継者だけに割当てを行おうにも、株主総会の特別決議(会社法199条、309条2項5号)を経なければなりません。
他方、会社が、他の株主から自社株を得ようとしても、やはり売り主である他の株主の承諾や株主総会の特別決議が必要となってしまうのが原則です(会社法156条1項本文、309条2項2号)。その他、既存株式に取得条項を新たにつけるにも、定款変更のために株主全員の同意が必要(会社法111条1項)となりますし、相続人等に対して売渡請求するにも、株主総会の特別決議を要します(会社法175条1項、309条2項3号)。
3.自社株の分散防止のための会社法制の利用
以上に述べたように、自社株(議決権)が分散した後に再集中させることは非常に困難ですので、先代経営者は予め分散防止策を講じておく必要があります。そこで、利用できるのが、会社法上の諸制度です。
まず、議決権制限付種類株式(会社法108条1項3号)や拒否権付き種類株式(会社法108条1項8号)を活用することで、後継者のみに議決権ある株式や拒否権付き種類株式を承継させることで、会社の意思決定権を後継者に独占させることが可能となります。
次に考えられるのが、取得条項付種類株式(会社法108条1項6号)です。先代経営者が普通株式を後継者に譲渡させ、他方で取得条項付株式を非後継者に承継させておけば、一定の場合に会社が非後継者から株式を取得することが可能となるので、後継者の議決権比率が相対的に上昇し、議決権の分散の防止を図ることができます。
4.まとめ
以上、経営権の承継に会社法上の制度をいかに利用するかについて述べてきましたが、これらの制度の利用にあたっても、会社の意思決定の機動性が損なわれる・デッドロックのおそれ・財源規制がある等の注意点もあります。
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