Q:私は相続人ですが、法定相続分どおり遺産を分けてもらうことができるのですよね?

A:相続人であっても、法定相続分どおりに遺産を分けてもらえるとは限りません。

解説

民法第900条には、相続人が複数いる場合のため、それぞれの相続分が定められています。これを、法定相続分と言います。

しかしながら、被相続人(亡くなった人)が遺言を残していた場合には、遺言に定められた分割方法・相続分が、法定相続分よりも優先します(民法第902条)。
したがって、遺言がある場合には、相続人が法定相続分どおり遺産を分けてもらえるとは限りません。

また、共同相続人の中に、被相続人から生前多額の贈与を受けていた場合や遺贈を受ける者がいる場合、当該相続人が「特別受益」を受けたとして相続分が修正される場合があります。

具体的には、相続人の住居の取得費として被相続人から1000万円の生前贈与を受けていた場合や、相続人の事業の開業資金として被相続人から500万円の生前贈与を受けていた場合等が考えられます。
「特別受益」が存在した場合は、特別受益を受けた相続人は、遺産分割の前渡しを受けたものとして扱われ、特別受益を受けた相続人の遺産分割割合が減少方向に是正されます(「特別受益」については、後日解説予定です。)。

逆に、被相続人の財産形成に寄与もしくは財産の維持に貢献した相続人がいる場合には、「寄与分」として相続分が増加方向に修正される場合があります。

具体的には、被相続人の農業や商店等の家業を相続人の一人が従事してきた場合や、被相続人の生活のために相続人が金銭を提供した場合、被相続人が病気や寝たきりになり一般的な扶養の範囲を超えて相続人が療養看護に務めていた場合等が考えられます。
「寄与分」が存在した場合は、寄与をした相続人の法定相続分に、寄与に応じた金額や割合を加えて修正し、遺産分割をすることになります(「寄与分」についても、後日解説予定です。)。

「特別受益」及び「寄与分」は相続人間の公平を図るものであり、個別具体的な事情を考慮し、公平の観点から法定相続分を修正するものです。すなわち、法定相続分どおり分割することが、かえって相続人間の公平性が図れない場合に、積極的に法定相続分に修正を加えるものが「特別受益」や「寄与分」といったものとなるのです。

また、実際の相続の際には、ほとんどの場合、相続人間で遺産分割協議を行い、相続人全員の合意のもと、遺産分割協議書に実印を押し合わなければなりません。  この場合に、全員が納得すればよいのですが、上記の「特別受益」「寄与分」が存在しない場合であっても、遺産分割協議に同意しない相続人がいるかもしれません。  遺産分割協議が整わない場合には、裁判所に「調停」(調停でも成立しない場合は「審判」)を申し立てる必要がありますが、「調停」や「審判」の手間や費用等を考え、法定相続分どおりでないけれども、遺産分割協議を完了させるために譲歩せざるを得ない場合もないとは言えません(このような場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。)。

以上のように、相続分のスタート地点は「法定相続分」であるということは間違いないとは思いますが、遺言書がある場合だけではなく、「特別受益」や「寄与分」といった法律上の修正事情や、具体的な相続人間の関係に基づく譲歩もありえるため、相続人であるからといって必ず法定相続分どおり遺産を分けてもらえるとは限らないということになります。