Q:5年前に別れた旦那Xが、つい最近亡くなったと聞きました。
 おそらく私と別れた後は、借金返済のあてを失い、借金まみれの生活をしていたはずです。

 そこで心配なのが、元旦那とも血縁関係のある息子Aに、元旦那の借金がまわってこないかという点です。息子には相続放棄させていますが、今後一切の関わりはないのでしょうか。
 特に旦那の母親Bや姉Cが、相続放棄をしなかった場合、後々、元旦那Xの借金問題が蒸し返されることはないのでしょうか。

A:結論から申しますと、息子Aには、再度相続放棄をする必要が生じ得ます
 この質問は、相続放棄後の“代襲相続”に対する不安という点に集約されるものです。
 代襲相続とは、被相続人(亡くなった人)の子(又は兄弟姉妹)が相続人となる場合において、子が被相続人の相続開始(死亡)前に死亡(又は欠格、排除)していた場合に、その子(元旦那Aからみると孫)がこれを相続するというものです。

相続の順位

 相続人となるべき者の順位は、第1順位が子、第2順位が親、第3順位が兄弟姉妹です。上の順位の者がいない場合や、上の順位の者全員が相続放棄した場合などにおいて、第2、第3順位の者が相続人となります。(なお、配偶者は共同相続人の順位により、その法定相続分の割合が変動するという関係であり、この順位の枠外です。)

 設問では、第1順位相続人である息子Aが相続放棄をしています。他に第1順位相続人(Xの子)がいないとすると、第2順位相続人であるXの母Bが相続を承認するか否かの選択をすることとなります。

 Xの母親Bが相続放棄をしなかった場合(単純承認した場合)、BはXの借金(=相続債務)を相続します。その後Bが死亡すると、Bの相続につき、本来第1順位相続人であるXにつき、息子Aが代襲相続をすることになるのです。

 これは、Xの相続について、すでに相続放棄している場合も同様です。したがってAは、X→B→A(Xの代襲相続)の順で、再びXの借金につき、相続するか、放棄するかを選択する必要が生じ得るということになります。もっとも、Bに多額の相続財産があり、Xの作った借金を踏まえてもプラスになるという場合も考えられますので、放棄の選択については検討が必要でしょう。

 母Bが相続放棄した場合、第3順位相続人である姉Cが、Xの借金につき相続するか否かの選択を行います。この場合にCが相続放棄をしなかった場合も、Aは相続放棄の選択を再び迫られる可能性があります。

 姉Cに子供Eがいる場合や、母Bの存命中にCが死亡した場合、第1順位はE、第2順位はBとなります。E、Bが共に相続放棄し、他に第1、第2順位相続人がいない場合、Aは、第3順位相続人Xの代襲相続人として、Cの相続につき選択する必要が生じます。

 なお、Bの死亡前に息子Aが死亡していた場合、Aに子Dがいれば、その子Dは、Xの再代襲相続人となります。他方、Cの相続の場面では、Dに対する再代襲は生じません。再代襲は、親子孫という縦の関係では延々生じ得ますが、兄弟姉妹の関係では、生じないのです。

 Aから見ると、気の休まる暇がないようにも感じられますが、Xにつき、全員が相続放棄をしない場合、このような状況ともなりうるのです。したがって、Xの相続について、親族間で話し合い、全員が放棄をしておくというのが、もっともシンプルな処理方法と考えられます。

 他には、BやCの相続の場面で、第1順位相続人が限定承認(プラスの財産の範囲のみ、マイナスの財産を相続するというもの)を行った場合、第2順位以降に相続権は生じないという知識を、親族間で共有しておくこと有益でしょう。また、現実問題としては、Xの作った借金についても消滅時効は進行しているはずですから、全く支払いをしていない状況が長期に及んでいる場合には、その援用も検討の余地があるでしょう。