一般に、亡くなられた被相続人が遺されたプラスの財産(預貯金、不動産等)の額よりも、マイナスの財産(借金、保証債務、賠償金等)の額の方が大きい場合には、相続を放棄するべきといえます。では、被相続人が債務を負っているのか、だれに対しいくら負っているのかは、どのようにすれば調べることができるのでしょうか。
 以下の事例について考えてみましょう。

 父親であるAさん(89歳)が亡くなられ、Aさんの御子息であるBさん(61歳)は悶々と悩んでおりました。

「父さんは不動産や預貯金とかの資産をそこそこ遺してくれたなぁ。でも昔、父さんが酒飲んで酔った時に、『友人の起業資金のために保証人になった』とか『代わりに金を借りてあげた』とか何とか言ってた気がするなあ。あの時は冗談だろうと思って深く聞かなかったけれど、本当にそんなことがあったんだろうか。相続は放棄してしまった方がいいんだろうか。いやでも冗談だったかもしれないから単純承認してしまおうかな…。いや…念のため限定承認がいいかな…。」

 さて、Bさんはどうすればいいのでしょうか。

 限定承認をして、相続したプラスの財産の限度でマイナスの財産を相続するという方法もあります(ただし共同相続人全員で行うことが必要です)が、まずは以下の方法で、亡Aさんの債務がどれだけあるのか可能な限り調べてみましょう。

(1)遺品チェック

 亡Aさんの引き出し等に、銀行や消費者金融からの請求書や督促状、金銭消費貸借契約の契約書等はございませんか?また、遺された通帳に、定期的に返済されているお金の記載はございませんか?通帳の「摘要」の欄や、支払先等を確認すると、消費者金融に定期的に返済されている金銭の流れを発見することがあります。

(2)情報開示請求

 借入先が正規の金融機関であれば、以下の機関に情報開示を請求することで債務額等を知ることができます。 

① 銀行からの借り入れに関しては

一般社団法人全国銀行協会 http://www.zenginkyo.or.jp/pcic/

② クレジット会社に対する債務に関しては

株式会社CIC http://www.cic.co.jp/cic/index.html

③ 消費者金融からの借り入れに関しては

株式会社日本信用情報機構 http://www.jicc.co.jp/index.html

 にお問い合わせください(相続人であることが分かる書類等が必要になります)。

(3)知人からの借り入れ等

 遺品の中に契約書や督促状等があれば、友人からの借り入れや知人の保証人になっていたといったような事情が判明します。しかし、このような書面が処分されたりして発見されなかった場合には、心当たりある方に聞いて確かめるくらいしか知るすべはありません。

 以上のように、亡きAさんが家族に黙って友人からお金を借りていたり、保証人になっていたりしていた場合には、それを把握することは非常に困難となります。Bさんとしては、リスクは捨てきれないが単純承認するか、官報公告、催告、換価、弁済等の非常に煩雑な清算手続きや税金の負担を覚悟して限定承認をするか、いっそのこと相続放棄してしまうかを選択することになります。

 なお、相続の承認又は放棄は相続人が自分のために相続の開始があったことを知った時から原則として3か月以内にする必要があります(民法915条1項)が、この期間内に相続の承認又は放棄の選択をすることが困難な事情もあるため、期間伸長を請求することができます(同項但し書き)。

 遺族のお幸せに繋がる相続のために、私たちも誠心誠意ご協力させて頂きます。まずはご相談ください。