1 はじめに

 弊所では「夫が浮気をしたので慰謝料をとりたい。」というような不貞慰謝料請求のご相談を数多く受けています。相談される方のご希望として、慰謝料を「夫からとりたい」「浮気相手からとりたい」「両者からとりたい」等ありますが、今回は法律的には誰からとれるのかご説明したいと思います。

2 不真正連帯債務

 たとえば、夫が妻以外の女性Aと不貞をし、妻に対して生じた慰謝料の総額が100万円だとします。

 結論から言ってしまうと、この時、妻は、夫もしくは女性Aのいずれに対しても慰謝料100万円を請求することが可能です。また、夫に対して50万円、女性Aに対して50万円をそれぞれ請求することも可能です。ただし、いずれか一方から100万円を回収した時には、他方に対しては1円も請求できません。 これは、不貞(不倫)は、法律的には、夫と女性Aの共同不法行為と構成され、慰謝料100万円の支払義務については、夫と女性Aの連帯債務とされるためです(民法719条1項。なお、この連帯債務のことを不真正連帯債務といいます)。

 したがいまして、妻と浮気をした夫の家計が一緒だったりする場合等には、妻は、浮気相手の女性のみから不貞の慰謝料全額を請求することも可能なのです。

3 求償権

 ただし、妻が浮気相手の女性Aのみから慰謝料総額100万円を回収した場合、夫は何も請求されないまま済まされるのかというとそんなことはありません。

 自己の負担部分を超える支払をした共同不法行為者である女性Aは、他方の共同不法行為者である夫に対して、自己の負担部分を超える分について求償することできます。たとえば、女性Aと夫の負担割合が50:50であれば、女性Aが100万円を妻に払っていた場合、女性Aは、夫に対して50万円の支払を請求することができるのです。

4 まとめ

 以上のように、不貞の慰謝料については、通常3者間の調整が必要になることが多く、複雑な関係になることもあります。是非弁護士へお気軽にご相談下さい。

弁護士 森 惇一