皆様、こんにちは。

1 イントロ

 9月24日付けの当職のブログ記事で、兵庫県明石市が離婚前講座を試行的に実施することについてご紹介しました。
 (記事はこちら:離婚前講座の試み

 9月20日に日弁連主催の「司法シンポジウム」で泉房穂明石市長がご参加し、明石市の子の養育に関する施策について語られたとのニュースに触れ(弁護士ドットコム9月22日配信)、明石市が想像以上にアグレッシブな野心をお持ちのようだったので、今回も続きとしてご紹介してみます。

2 施策の概要

 前回ご紹介しましたとおり、明石市は離婚時に養育費及び面会交流の合意書の書式を用意して配布しているとのことでした。それに加えて、弁護士やカウンセラーといった専門家を常駐の職員として迎え入れ、相談窓口として活躍してもらっているようです。

 加えて、今後の方針の1つとして、本年10月から離婚後の父母が子の様子について情報交換するための養育手帳を配布するとのことで、これは既に実施されている模様です(読売新聞10月21日配信)。さらには、面会交流の場所を提供すべく、市内の天文科学館を面会交流に利用する際には入館料を無料するための準備を進めていたり、将来的には養育費の立て替え制度や面会交流センターを市役所内に作るといったプランを示されていました。

 最後には「ADR機関として、市役所内に明石市民裁判所を作る」という言葉を口にされていました。

3 感想

(1) 報道記事に触れてみて印象的だったのは、雑駁な言い方ですけれど、かなり踏み込んだことをやろうとしている、ということでした。

(2) 率直に申し上げれば、養育費や面会交流の定めを書きこめるという書式は、使うか否かは本人たち次第ですし、いざとなれば弁護士に依頼したり、公証役場で公正証書として作成してもらうこともできなくはないので、感銘力はあまり高くはなかったです。

 離婚講座も、そもそも参加する時点でかなり意識の高い人々に絞られるだろうから、その人たちにある程度来てもらえれば市民への理解に成功したなどと言えてしまうのではないかと穿った見方をしていました。

(3) しかしながら、例えば、面会交流場所の提供については、天文科学館がどれだけ人気のスポットなのか否かは知りませんが、多少なりともコストを少なく利用できるとか優先利用が可能になれば、いわゆる意識髙い系の親御さんでなくても、関心を持つ可能性はあるだろうと感じました。

 ましてや養育費の立て替えとなると、そもそも実現できるのか財源の問題、求償の可否、差し押さえに向けた債務名義の取得の可否など私ごときの頭では、課題すら整理がつきませんが、実現できるのであれば相当の利用者が殺到することは想像に難くありません。

(4) それでも、施策全てが実現できる、定着し、範囲永続的に実施されることにはならないであろうと、実はまだ思ってますが、解決策の多くはない養育費や面会交流の在り方について、全国的に見ても刺激になるのではないかと思います。

 ただ、市役所内にADR機関(※ADR=裁判外紛争処理手続を指します)を設置するというのは、何となく市長の野心なのかなという印象を持っており、前回の記事と同様、家庭裁判所が法制度として養育費や面会交流のみならず家事事件の多くを担っていることの意味や整合性を考えていく必要があるのではないかと思います。

 例えば、調停前置主義との整合性については、いくら市役所内の手続で話し合ったとしても、現行制度では今度は家庭裁判所で調停から始めなければ審判や訴訟に移行することはできず、結論を得るまでに今以上の時間がかかってしまうことも懸念されます。それでも市役所内の手続を併存させていくつもりのか、市役所内の手続を調停相当に扱うような法改正を経てより制度として深く入り込んでいくのか。

 また、質を高める努力をすればするほど家庭裁判所の意義も議論されることも想像されるので、前述のとおり考えることは多いように思います。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。