皆様、こんにちは。

1 イントロ

 先日、ニュースで兵庫県明石市が離婚前講座を試行的に実施するとの報道を目にしました(毎日新聞9月2日15時付け)。

 報道の内容からは概要しか把握できませんでしたが、民法改正により離婚前に夫婦で子の面会交流と養育費の分担を定めるように規定された点(民法766条1項参照)について、促進するための動きのようです。

 今回はこの離婚前講座について少し考えてみます。

2 なぜ明石市なのか?

 中身に入る前にですが、小見出しのとおり、なぜ明石市がこのような試みの先陣を切ったのか考えてみました。

 明石市は、学校の地理の授業で習ったと思われますが、日本の標準時子午線上にあると言われている特例市(注;人口20万人以上で政令で指定する市で、都道府県から一部の権限移譲を受けている都市のこと)です。特例市そのものは、他に全国に40市ほどあるそうなので、取り立てて特殊というわけではなさそうです。

 おそらくは、明石市の泉房穂市長が弁護士&社会福祉士であり、離婚や別居に伴う子どもへの支援に向けた施策展開を掲げておられることが離婚前講座試行の推進力になっていると感じられます(明石市HP等参照)。

 明石市は、弁護士や社会福祉士等の専門的な資格を持った職員の採用に積極的であり、それらの職員を動員させる出張相談等、高度なサービス提供の実現を展開しています。報道を読んだ限りでは、離婚前講座は国内の大学教授が担当するようですが、先に述べた弁護士や社会福祉士等の有資格職員が企画運営に携わっているのではないかと思います。

 既に、子どもの養育に関する書き込み式の書式を市のHPで掲載されており、養育費及び面会交流の合意をよりまとめやすくしようとする試みが見うけられます。この書式も弁護士職員が専門の有識者の意見を聞いて作成されたものとのことです。

3 なぜ離婚前講座なのか?

 果たして離婚前講座の狙いは何なのでしょうか。

 わが国における離婚形態は協議離婚が(都道府県によって若干のばらつきがありますが)離婚全体の8割から9割を占めています。協議離婚の「協議」の質を高めるのが狙いだと考えます。

 そもそも、夫婦間で離婚するorしないで揉めてしまっているケースや、離婚の条件で揉めているケースでは、夫婦間でいくら話し合っても結局は物別れに終わります。これらのケースは、調停や訴訟へと進んでいき、最終的にそれらの手続で養育費や面会交流の条件が定まっていきます。このような紛争性の高い事案は、調停、審判及び訴訟事件を担う家庭裁判所が一手に引き受ける制度設計となっております。

 そのため、離婚前講座で、いくらお子さんのことを考えて決めておきましょうと力説しても、上記の類のケースの当事者は、自分がより有利に離婚できる方向に関心が向いてお互いに退かないので、紛争化を止めることは叶わないでしょう。この点は、担当する講師が弁護士ではなくて大学教授であるという点からしても、離婚紛争に介入する趣旨ではないことが窺われます。

 となると、離婚前講座の活かしどころは、話し合いでどうにか離婚を進められる当事者に、養育費や面会交流のことも併せて考えて欲しい、という啓蒙活動を行う点に見出せそうです。協議離婚が多くを占めるとはいえ、養育費や面会交流については、未定のままに離婚届を提出してしまうケースが一定割合存在し、昨今、面会交流調停は増加傾向にあるとも言われています。

 そこで、離婚前講座で、理性的に話し合える親に対して、何をポイントに協議を進めていくべきか、というアプローチの仕方を教えたりするのではないかと想像します。

 もっとも、子どものことを考えよう、と唱えたところで、これから離婚する父母がどれほど理性的に考えられるのか。結局、「子どものために自分はこう考える」と、親たちのエゴのぶつかり合いが表面的に変化するだけの話に終わらないようにする工夫が見どころとなるように思います。

 見学してみたいところですが、独り者は門前払いを喰らってしまうでしょう。出張扱いにしてもらえそうにありませんしね。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。

参照資料
・「平成21年度『離婚に関する統計』の概況」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon10/01.html(2014/9/16アクセス)
・泉房穂「地方自治体における弁護士職員の積極的活用」法律時報86巻9号36頁以下(2014)
・「離婚後のこども養育支援~養育費や面会交流について~」
http://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/soudan_shitsu/kodomo-kyoiku/youikushien/youikushien.html(2014/9/16アクセス)