皆様、こんにちは。
1 イントロ
当職の平成26年6月13日付ブログ記事にて、私立の学校の通うお子さんがいらっしゃる場合の婚姻費用や養育費算定の考え方についてご紹介しました。(記事はこちら:私立学校の学費負担のゆくえ)
その時に、標準算定方式ではお子さんは公立学校に通っていることを前提に算定されると申し上げましたが、その点に関してユニークな主張がなされた審判例を拝見したので、本稿でご紹介します。
2 事案の概要、争点
夫婦間の婚姻費用の分担についての調停が家庭裁判所に申し立てられたものの、話し合いは折り合わず、審判事件に移行して家庭裁判所が婚姻費用の月額を決めました。
ところが、婚姻費用を払う側は家庭裁判所が下した審判に不服で、高等裁判所に抗告したのが本件(福岡高等裁判所那覇支部平成22年9月29日決定)です。
抗告人(不服を申し立てた側です。)が主張したのは、①相手方は給与所得の他に子ども手当をもらっているからそれを含めて、婚姻費用を計算すべきだ、②公立高校の授業料が無償化されるから婚姻費用の計算にあたって使われる生活費指数(※成人が100という指数であるのに対して、15歳以上の未成熟子は90と扱われます。)は下がるはずだ、という点でした。
3 裁判所の判断
①の子ども手当の点は、一般によく言われているところでもありますが、結論として婚姻費用算定の際の収入額には含まれません。
高等裁判所では「子ども手当制度は次代を担う子どもの育ちを社会全体で応援するとの観点から実施されるものであるから、夫婦間の協力、扶助義務に基礎を置く婚姻費用の分担の範囲に直ちに影響を与えるものではない」と述べました。つまり、子ども手当は、夫婦間で子どもの養育費等をどう負担し合うかということとは別の制度として設けられたものだから、別枠のものとして扱われるということでしょうか。
②の公立高校の授業料の点ですが、こちらも高等裁判所は婚姻費用の算定に影響しないとの判断を示しました。
高等裁判所は「公立高等学校の授業料はそれほど高額ではなく、長女の教育費ひいては相手方の生活費全体に占める割合もさほど高くはないものと推察されるから」影響を及ぼさないと理由づけています。
抗告人側の主張によれば年間授業料が11万8000円とのことだったので、裁判所はそこまで細々と反映させるのは無粋と考えたのでしょうか。価値観の問題かもしれませんが、抗告人側は授業料だけで月額1万円弱の負担の差が出るので厳密に計算してもらいたかったようです。
なお、本件は最高裁に許可抗告の申立てがなされましたが、棄却された模様です。執念のようなものを感じました。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。