1 はじめに

 離婚を巡るよくあるトラブルとして、妻が未成年の子供を連れて出て行ってしまったというものがあります。このとき、夫が妻に連れていかれた子供を取り返す方法としてどのようなものがあるか、今回ご紹介したいと思います。

2 人身保護請求

 まず、人身保護法2条に基づく子の引渡請求があります。同法に基づく子の引渡請求が認容されると、「判決をもって被拘束者を直ちに釈放する」(同法16条3項)と定められているように、迅速かつ強制的に子の引渡しが認められることになるため、子の引渡しを求める根拠としては最も強い手段と言うことができると思います。

 ただ、同法に基づく請求の当否を審理するのが調査官等の専門調査機構を有する家庭裁判所ではなく地方裁判所であること、前述のように迅速かつ強制的に子の引渡しを実現する制度であることから、そう簡単には請求は認容されません。

 具体的には、「拘束者が監護することが子の幸福に反する明白な事情がある場合に限り、人身保護請求が認められる。」とするのが判例(最三小判平成5年10月19日)です。また、同判例の補足意見では、別居中の夫婦間の子の引渡しについては、家庭裁判所への監護者指定・子の引渡の審判手続を使うよう示唆されています。

 したがって、結論としては、妻が子を連れて出ていったという事例では、子を取り返すのに、人身保護請求を用いることは難しいといえるでしょう。

3 子の監護者指定・子の引渡の審判及び仮の監護者指定・子の仮の引渡し

(1)先に述べた判例が示唆していたように、妻が連れて行った子を夫が連れ戻す方法として一番用いられることになるのが、この方法です。

 この審判は家庭裁判所の管轄になります。すでに述べたように、家庭裁判所には、調査官という専門職のスタッフがおり、この調査官が子の監護者として夫妻のいずれが相応しいかを調査した上で、その報告を受けた裁判官が、いずれの親に監護をさせた方が子の福祉に適するかという実質的な観点から、監護者を夫妻のいずれかに指定することになります(東京高決平成15年1月20日参照)。具体的には、①監護者としての適格性②子の事情③子の意思等の事情が考慮されます。

(2)保全処分としての仮の監護者指定・子の仮の引渡しは、上記(1)の審判(これを本案といいます。)と同時ないしそれ以前に、ひとまず子の引渡しをしなさいということを求めるものです。

 ただ、この申立も「引渡しの強制執行がされてもやむを得ないと考えられるような必要性がなければ、保全の必要性が認められない」(東京高決平成24年10月18日参照)という高いハードルがあります。具体的には、

① 監護者が子を監護するに至った原因が強制的な奪取又はこれに準じたものであるかどうか
② 虐待の防止、生育環境の急激な悪化の回避、その他の子の福祉のために子の引渡しを命ずることが必要かどうか
③ 本案の審判の確定を待つことによって未成年者の福祉に反する事態を招くおそれがあるといえるかどうか

という要素が考慮されます。

4 まとめ

 子の引渡しを求める手段としては、以上のような手段が考えられますが、実際に、どういう事実が、引き渡しを求めるにあたって有利な事情となるかの判断はなかなか困難です。

 当事務所には、子の引渡を巡る事件を多数扱っている弁護士がおりますので、お気軽にご相談下さい。
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