2月5日の記事「離婚と税金(1)」で見た通り、離婚関係で当事者間のお金が動く根拠は、大まかに分けると①財産分与、②慰謝料、③婚費ないし養育費です。今回扱うのは、③のうち養育費です。とうとう最後まで来ました。

 前回ご紹介した通り、相続税法第21条の3第1項第2号及び同項柱書には、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」の価額は、贈与税の課税価格に算入しない・・・つまり、扶養義務者相互間で生活費又は教育費として渡されたお金は非課税だと規定されています。「生活費」には養育費を含みます(相続税法基本通達21の3-3)。

 そして、民法第877条第1項には、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と規定されています。親子は直系血族ですから、互いに扶養義務を負うということになります。

 すると、親子の間で渡される養育費は非課税だということになりますね。

 これだけではあまりに淡白なので、もう少し踏み込んだ話をしてみましょう。

 通常養育費は、子が成年に達するまで、毎月定額が支払われます。しかし、たとえば、あまり安定していない職業についていて、今は収入があるけれどもこの先どうなるかわからないという親が、お金のある今のうちに養育費を一括して支払いたいと考えたとしましょう。そこで、子が成人するまでの養育費として、子に1000万円渡したとします。

 これが税務署からはどう見えているかというと、AとBが親子であるということ、1000万円の現金がAからBに渡されたということはわかります。しかし「今後○年分の養育費の支払いとして」という、1000万円が移動した原因については見えません。そのため、税務署は単にBが1000万円を贈与されたと考えて贈与税課税の準備を始めるでしょう。それでは困ります。

 では、税務署に「これは養育費として支払った1000万円なのだ。」と説明した場合はどうでしょう。おそらく税務署の答は、「それはとても高い養育費ですね。1000万円というのは相続税法第21条の3第1項第2号の『生活費・・・に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められる』範囲を大きく超える金額ですから、課税させていただきます。ご準備をお願いします。では、次の方。」というところでしょう。

 では、「これは今後10年分の養育費を一括して支払ったのだ。」と説明した場合はどうでしょう。この場合の税務署の答も予想してみると、「それなら多額になるでしょうね。しかし、相続税法基本通達21の3-3及び同3-5によれば、養育費として課税されないのは『必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいう』ので、一括支払いの養育費というのは基本的に想定されておりません。残念ですが課税させていただきます。ご準備をお願いします。では、次の方。」というところでしょう。

 ・・・。
 取り付く島もないですね。
 養育費を一括で支払った場合は課税されるほかないのでしょうか。

 もちろん、こんなにガチガチした法適用をせず、事情をくんで一括払いでも「通常必要と認められる」と解釈してくれる場合もあるでしょう。また、養育費について、相続税法基本通達9-8「財産の分与によって取得した財産」に含めて解釈してくれる税務署もあるようです。しかし、上記のように冷たい対応をされる可能性は、法律の文言上は残るのです。できる限り対策をしておく方が得策です。

 考えられるのは、子を受益者とする信託契約を締結しておくことです。元配偶者等が勝手に契約解除できないよう、元配偶者と自分との双方の同意があって初めて解除できるような内容の信託契約です。

 そして、この信託契約により、信託で運用された財産を均等割給付の形で子に受給させるという内容の調停条項を作成しておくことです。これに対しては課税しないという運用がされているそうです(「離婚に伴い養育料が一括して支払われる場合の贈与税の課税の取扱いについて」と題する個別通達があるとのことですが、国税庁のウェブサイトには同通達の記載がありません。)から、対策としては有りうるというところでしょう。