今回は、近時、多くなってきている「内縁」について、お話ししてみようと思います。
内縁とは、婚姻の意思をもって、共同生活を営み、社会通念上夫婦と認められる実態があるにもかかわらず、婚姻の届出をしていないため、法律上は夫婦と認められない男女の関係をいいます。
上記から、内縁と認めるためには、簡単に言うと、男女が二人で共同生活を営もうという意思があり、またその事実があればよいことになるでしょう。それらは、通常、同居が一定期間継続しているないし結婚式を挙げている等客観的事情から判断されます。
このように内縁とは、形式上は婚姻関係になくとも、実態的には婚姻と同様の関係にあることから、法的取扱いにおいても、婚姻に準ずる扱いがなされています(準婚理論)。
したがって、婚姻届と直接に関連するもの以外は、内縁関係にも、法律上の婚姻の効果が及ぶことになります。すなわち、同居義務(同法752条)、貞操義務(同法770条1項1号)、婚姻費用の分担(民法760条)、日常家事債務の連帯責任(同法761条)、財産分与(同法768条)等の各規定は、内縁関係に対しても準用ないし類推適用されます。
ただ、財産分与に関しては、生存中の内縁解消であれば、内縁者の財産分与請求を民法768条により認めているのですが、一方の死亡による内縁解消の場合には、同条の類推適用を判例は否定しているのです(最判平成12年3月10日)。もっとも、これでは、生存解消と死別解消とで、内縁者の財産形成における寄与に差異はないのに、不均衡、不公平だという見解もあり、その考えに沿った裁判例も出ています(大阪家審昭和58年3月23日、大阪家審平成元年7月31日等)。
他方、夫婦同姓(同法750条)、成年擬制(同法753条)、夫婦共同親権(同法818条3項)等の各規定は、婚姻の届出を前提としている効果なので、内縁の場合には準用されないとされています。ただ、氏に関しては、内縁関係においても、同姓にするための氏の変更を認めた裁判例もあります(京都家審平成6年10月3日)。
次に、上述したように、内縁は何らかの手続を踏むわけではなく、事実上成立するものなので、婚姻における障害事由の存在が、果たして内縁にどのように影響を及ぼすかが問題となります。
まず、婚姻適齢(民法731条)に達しない内縁、再婚禁止期間内(同法733条1項)の内縁、父母の同意のない未成年者(同法737条)の内縁などは、判例上認められています(大判大正8年4月23日、大判昭和6年11月27日、大判大正8年6月11日)。
また、重婚禁止に反する(同法732条)内縁関係に関しては、認めるのが一般とされています。ただ、重婚的内縁を認めるというのは、法律上の婚姻関係が続いているが、その関係は冷え切っていて実質的に破綻している場合に、準婚関係たる内縁の成立はありうるという話しです。同時に二つの内縁関係が認められるというわけではありません。そんなことを認めたら、法律上は重婚が禁止なのに、準婚たる内縁という形をとれば、一夫多妻制同様の制度を認めることになりかねません。
他方、近親者間の禁止に反する(同法734条)内縁に関しては、これを禁じた趣旨が優生学的配慮及び社会倫理学的配慮という点にあるため、内縁も同様に妥当するものとして、やはり認められないと考えられています。判例上も、直系姻族間での内縁についてですが、反倫理的であることを理由に否定したものがあります(最判昭和60年2月14日)。