不貞行為をして婚姻関係を破綻させた配偶者に対しては、一方配偶者から不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。さらに、不貞の相手方となった者に対しても、同じく不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。

 この2つの責任は、共同不法行為というものにあたります。要は不貞配偶者と不貞の相手方とが一緒になって婚姻関係を破綻させたということです。

 この共同不法行為となると、二つの損害賠償債務は不真正連帯債務という関係なります。例えば、総額200万円の慰謝料が認められた場合、債務者双方が全額200万円の支払義務を負います。債権者はいずれから200万円をとってもいいのです。ただ、一方の債務者が全部ないし一部なりとも弁済すると、その分は他方の債務者の債務額を減らします。

 一般的には、共同不法行為となる場合には、共同不法行為によって生じた損害全額について連帯責任を負うと考えられるのですが、これとは異なる判断を下すのが次の裁判例です。(妻から、夫と不貞行為をした女性の両名に対し、慰謝料請求した事案で、共同不法行為によって生じた慰謝料総額は80万円としながら、女性についてはそのうち10万円のみの連帯責任を認めた事案です(札幌地判昭和51年10月19日)。少し古い裁判例であり、貨幣価値も現在とは異なるため、この点は注意が必要です。

 次のように判示しました。

「共同不法行為の成立が認められても、ある加害者の行為もしくは結果に対する関与の度合いが非常に少ない場合で、かつ、そのことが証明されている場合には、その者については、右関与の度合いに応じた範囲での責任のみしか負わすことができないものと解すべきである。」

 この事案では、夫が不貞において主導権を握っており、不貞相手はこれに従うしかなかったという事実が重視されております。

 事案としてはかなり極端ではありますが、不貞配偶者と不貞相手との間の関係性によっては、不貞相手の責任が小さくなることを示す裁判例として重要です。

 ただ、このような主張を交渉の場で直接不貞相手から請求者へしたとしても、「お前反省してんのか」、「人のせいにするな」などと、請求者の感情を逆なでする原因にもなりかねませんので、こういう場合には特に代理人をつけて交渉に臨むことをお勧めいたします。

弁護士 吉田公紀