10月になり、すっかり秋らしくなりました。
 皆さんいかがお過ごしでしょうか。

 さて、今回は、「結納」についてご説明します。

 結納とは、「婚姻の成立を確証し、あわせて、婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与」(最判昭39・9・4民集18巻7号1394頁)とされています。婚約がととのったときに、当事者間で将来の婚姻の成立を前提として金品の授受をする「結納」の慣行は古くからみられます。

 地域ごとにも様々な違いがあり、ここで詳細に述べることはできませんが、「結納の研究」なんていう論文が存在するくらい、一つの研究対象たり得るものでもあります。

 さて、その結納ですが、円満に結婚に至れば問題ありません。問題なのは、結納は済ませたが、不幸にして婚姻成立にまで至らなかった場合、です。この場合、結納はどのように取り扱われることになるのでしょうか。これは、「結納」というのは、法律的にどういうものなのか、という問題です。

 上記最高裁判例は、結納について、①婚姻の成立を確証し、あわせて、②婚姻が成立した場合に当事者両家間の情誼を厚くする目的で授与される一種の贈与、として、2つの性質を持っていると考えているように読めます。

 大事なのは②の性質です。

 法律上「贈与」であることを明示すると共に、「目的」で制限をかけています。

 したがって、目的が達成されている場合は返還を請求できませんが、目的が達成できなかった場合には、返還を請求できることになります。

 例えば、挙式後8ヶ月余夫婦共同生活を続け婚姻届出も済ませたような場合は、結納授受の目的は達成されており、結納の返還義務はないと判示しました(最判昭39・9・4民集18巻7号1394頁)。

 反対に、婚約が解消され法律上の婚姻が成立しなかったり、挙式後同棲して短期間の間に離別した場合には、原則として結納は出捐の原因を欠き、目的の不到達を理由に不当利得として返還しなければなりません(民法703条)。

 なお、有責当事者からの返還請求に関して、法律構成は様々ですが、裁判例・学説上、返還請求を否定する立場が多数です。

弁護士 水野太樹