今回は、法律上の婚姻や離婚とは違う、また準婚扱いの内縁とも異なる婚約等について、話をしてみようと思います。

 まず、婚約については、ここで説明するまでもなく、みなさんご存じと思います。簡単に言えば、将来、結婚する約束であり、法律的にみると、婚姻契約の予約です。

 ということは、一方が何らかの理由で婚姻しないと言い出した場合、婚姻契約は履行できなくなるといった事態が生じえます。

 その場合、婚約も一種の契約である以上、債務の本旨に従った履行がないものとして、債務不履行となります。ただ、民法の過失責任主義から、債務不履行責任を負わすには、不履行に関し、当事者の帰責事由が求められます。つまり、単に婚約しなかったというだけでは、責任は生じないのです。

 当事者としては、婚姻の成立に向けて、誠実に努力していく義務を負います。その義務に反して、不誠実な言動により婚姻を成立させなかった場合、その者は債務不履行責任を負うことになります。

 債務不履行責任を負うといっても、具体的には、損害賠償責任を意味します。披露宴キャンセル料、婚姻のために既に仕事を辞めてしまったことに伴う損害、結婚式案内状郵便代等、婚約不履行によって無駄になった費用です。また、こういった財産的損害のみならず、精神的損害、すなわち慰謝料も含まれます。

 しかし、いかに契約が成立したといえても、不履行の相手方に対し、間接強制等で無理矢理、婚姻を強制執行することはできません。これから一生共同生活をしようという関係に、嫌がる当事者を無理に持って行こうとしても意味がないからです。あくまで、金銭賠償に尽きるわけです。

 なお、当事者に限らず、第三者が責任を負う場合もありえます(最高裁平成8年2月1日判決等)。

 婚約が不当に破棄されたことについて、第三者が関与していたり、さらには、第三者の言動さえなければ婚姻は無事に成立していたはずなのにといった場合です。例えば、婚約女性側の親が娘をとられたくないとの思いから、婚約男性やその両親に対し、婚姻を邪魔するような働きかけをし、関係を壊してしまうような場合が考えられます。

 以前経験した事案に、新婦側の親が披露宴で新郎の父に挨拶させるなとか、親族紹介をさせるなといった要求をし、要求が通らなければ披露宴には出ないと告げた結果、そこから二人の関係がこじれて、結局、破局したということがありました。

 婚約した当事者は何の責任もなく、明らかに親が両者の関係を壊したと言えれば、損害賠償責任を負うのはその親なのです。法律的にみると、これは第三者による債権侵害の場面であり、認められるケースは第三者に悪質性がある場合に限られはしますが。