婚姻費用とは、夫婦間で相互に扶養義務があるため、婚姻期間中、別居している場合などに、収入の多い一方が収入の少ない他方へ為す扶養義務の金銭的支払い費用のことです。

 この婚姻費用の額は、当事者間の合意で定まれば良いですが、定まらない場合には、裁判所が、夫婦の資産、収入その他の一切の事情を考慮して、審判で決めます。その際に基準とするのが、標準的算定方式に基づく標準的算定表というものです。

 さて、今回は、この算定表より多額の婚姻費用を支払っていた場合、財産分与の際に、その超過額を財産分与の前払いとして扱うことができるかどうかという問題についてご説明します。

 この点については、裁判例(大阪高裁平成21年9月4日決定・家月62-10-54)があります。

 この事案は、妻が夫に財産分与を請求したところ、夫が婚姻費用を趙過払いしたのでその分減額すべきであると主張した事案です。

 夫は、財産分与においては夫婦の一方が過大に負担した過去の婚姻費用の償還を考慮すべきであるとしましたが、妻は婚姻費用についてはお互いの合意に基づいて支払っていたものであり、今更過去に遡って婚姻費用が過大であったなどと主張することは本末転倒であると主張しました。

 裁判所は、財産分与が、先ほど説明したとおり、夫婦の資産、収入その他の一切の事情を考慮して決めるものであることを理由に、

「当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて婚姻費用分担をしている場合に、その額が当事者双方の収入や生活状況にかんがみて、著しく相当性を欠くような場合であれば格別、そうでない場合には、当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて送金した額が審判をする際の基準として有用ないわゆる標準的算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下)に基づいて算定した額を上回るからといって、超過分を財産分与の前渡しとして評価することは相当ではない」

としました。

 したがって、婚姻費用は、貰えるなら貰えるだけ貰っておいた方が得だということです。ただし、あまりにも相当性を欠く場合は別です。

弁護士 松木隆佳