離婚における「有責配偶者の離婚請求」論については、ご存じの人も多いと思います。不貞行為など、夫婦関係が壊れた原因を作り出した側が、子どもや相手を捨てて別れたいと言い出すことは都合がよすぎるとして、原則として離婚を認めないという考え方です。

 今日は、一定の場合にこの「有責配偶者」側がもはや「有責配偶者」と扱われるべきではない、したがって離婚を請求できる、と判断されたケースをご紹介します。

事案の概要

 妻の不貞行為が発覚したが、妻はこれを謝罪し、夫は妻の不貞行為を許した(「宥恕」(ゆうじょ)という言い方をします)。二人はやり直す決意をし、夫婦関係も復活し、それから4,5カ月間は平穏な状態が続いた。

 しかし、その後夫は妻に対し「男とまだ会っているのだろう」「一生束縛してやる」「絶対離婚はしない」「死ぬまで自由にはさせない」などと言って妻を責めるようになった。妻はこのような執拗な責めに対し、徐々に生理的嫌悪感を感ずるようになり、夫と縁を切って新しい生活をはじめようと決意し、自分のほうから別居に踏み切った。

 別居以来、夫は妻と会うことも音信もなく、離婚には応じないものの、関係改善への努力をするような兆しも見られない。

 このような状況のもと、別居から4年程が経過し、妻が離婚を求めて訴訟を提起しました。
 これに対し、裁判所は次のような判断をしました。

 不貞行為を犯した配偶者から離婚請求があった場合に…相手方配偶者が右不貞行為を宥恕したときは、その不貞行為を理由に有責性を主張することは宥恕と矛盾し、信義則上許されないというべきであり、裁判所も有責配偶者からの請求とすることはできない。(東京高等裁判所 平成2年12月24日判決)

 そして、妻と夫との婚姻関係は既に回復しがたいほどに破綻していると認め、離婚を認める判決を下しました。

 自分は以前浮気をしたことがあるから、夫婦関係は冷え切っているけど自分からの離婚はできない、と思い込んでいる方も多いと思いますが、事情によってはこのケースに当てはめ、離婚が認められる場合もあると思います。
 まずは相談してみてください。

弁護士 井上真理