婚姻中、離婚を考え、別居に至ると、子どもがいる場合、子どもの取り合いになることがしばしばあります。色々な事情によって子どもと片親が分かれてしまったものの、取り返したい、と思うことは多々あるでしょう。
今回は、父母の一方が相手方から子どもを愛するがあまりに連れ去ってしまった場合についてみていきたいと思います。
まず、取り返しの方法としては、家事審判で子の引渡しの請求を求める方法と、人身保護手続を用いる方法とあります。
最高裁で子の引渡しについて人身保護手続を用いることを容認して以来、人身保護手続を用いるのが通常であるかのような実務の運用がなされていたようです。ただ、子どものことについては、家庭裁判所という裁判所が特別に設けられている以上、通常の裁判手続によらずに、家庭裁判所で行うべきであるという見解もあります。家庭裁判所には、専門の調査官がおり、子どもの発達・心理、父母の経済状況、養育環境などを調査して、実質的な総合判断を行うことが可能とされていることなどが理由です。
夫婦間で関係が悪化しても、子どもは何も悪くありません。私は、子どものことについては、子どものこととして、夫婦との問題と切り離して円満に解決をしたいと常に思っています。そのため、まずは家庭裁判所の手続である家事審判手続によるべきであるという考え方は、傾聴すべきであると思います。
ただ、事案によっては、緊急性を要したり、生ぬるい方法では無理であったりすることもあるでしょうから、一律家事審判手続によるべきだとも思いません。実際、どの手続をとるかは、弁護士に相談してみたら良いでしょう。
なお、若干、両手続の違いを見ておきます。人身保護手続を用いた場合、連れ去った者による子どもに対する監護・拘束が権限なしにされていることが顕著である必要があります(人身保護規則4条参照)。この顕著性が認められるためには、夫婦はどちらも子どもに対して親権を有するものですから、特段の事情がない限り、連れ去った者による監護が子の幸福に反することが明白である必要があります(最高裁平成5年10月19日判決)。
そのため、連れ去られたとしても連れ去りが違法と判断されるには、厳しいハードルがあります。しかし、連れ去りの程度の悪質性などによっても判断が異なりますので、決して安易に連れ去りをしないでください。連れ去りについて刑事処分を受けた例もあります。
裁判所は、自力救済を禁止する姿勢を強く貫いていますので、家事審判手続で監護が定まっているのに、監護状態が異なるなどの事情がある場合には、特段の事情があるとして、人身保護手続による引渡請求が原則として認容されます。
他方、家事審判手続では、実質的判断がなされますので、基本的には、母親による監護と、父親による監護とを、調査官調査などを経て、どちらがより良いか比較して判断することとなります。そして、比較して優劣を付けがたいとき、裁判所は、現状維持の判断をする傾向にありました。では、連れ去りがあっても同様でしょうか。
私の知る限り、最高裁の例はありませんが、高裁レベルでは、上記比較判断にあたって、連れ去った場合には、連れ去った者の監護状態が、連れ去られた者による監護状態と比較して、ある程度優位に上回ると積極的に認められない限り、連れ去られた者による引き渡し請求を認容したものがあります(仙台高裁秋田支部平成17年6月2日判決)。
いずれにせよ、判例の傾向としては、自力救済を厳しく禁止し、法的手続によることを重視しているようです。ただ、これのみならず、その他の事情も考慮しているのが実情であると思います。特に、家事審判手続を用いた場合の方がよりその他の事情を顕著に考慮しているように思われます。
弁護士 松木隆佳