今回は、前回の続きで、人工受精子の親権者を決する場合について、裁判所がどのような判断をしたかについてお話しします。
(前回の記事はこちら:人工受精子の親権者を定めるについて考慮すべき事項①)
東京高裁平成10年9月16日決定は、人工受精子の親権者を定めるについては、未成年者が人工受精子であることについては、自然的な血縁関係がないことは、子の福祉に何らかの影響を与える可能性があるとして、これを考慮する必要があるとしました。ただし、当然に母が親権者にしていされるべきであるとまでいうことはできず、未成年者が人工受精子であることは、考慮すべき事情の一つであって、基本的には子の福祉の観点から、監護意思、監護能力、監護補助者の有無やその状況、監護の継続性等、他の事情も総合的に考慮して親権者を決すべきであるとしました。
このような判断基準を示した上で、本件については、母親Xと父親Yの双方の養育態度、養育環境、未成年者の受け入れ態勢等については優劣がないが、未成年者の年齢からして、母親の愛情と配慮が不可欠であるとし、子Zは出生以来Yと共に生活をしてきているが、監護の継続性や現状尊重というほど現状は固定したものではなく、Zの生活の場をXのもとに変更する弊害はほどんどないとして、原審判を取り消して、Xを親権者と定めるのが相当であるとしました。
この決定は、未成年者が人工受精子であることを考慮要素の一つとしながら、あまりその点について検討されず、一般的な監護者指定の考慮要素のみで、(しかも母性優先の原則を強調し、監護の継続性をあまり重視せずに)判断されたようにも感じられます。
仮に、未成年者が人工受精子であるという考慮要素をより重視すれば、父親、母親のどちらに監護者としての判断に傾きやすいでしょうか。これはあくまで私見ですが、将来未成年者が出自を知った際に、監護者と自分とは生物学的に親子でないということがわかれば、未成年者に精神的なショックを与えてしまう可能性があるといえます。とすると、本件の場合では、やはりXに親権者が定められることになってのではないかと考えられます。