最近は、不妊に悩んでおられるご夫婦が不妊治療を受けるという話を耳にします。不妊治療といっても様々で、夫側に原因がある場合でも、精管通過障害の場合と造精機能障害の場合とでは、全く治療方法が違うでしょう。造精機能障害の中でも、最も深刻な無精子症の場合、それでもどうしても子どもが欲しいということになれば、第三者から精子の提供を受けて、妻の卵子と受精させ、人工受精子を母体に戻し出産するという、非配偶者人工授精という方法が取られます。
今回は、この非配偶者人工授精によって出生した子の親権者をめぐる争いについてお話ししたいと思います。
X(母親)とY(父親)に間には、Yが無精子症であったため、X、Y双方合意の上で、Xが第三者から精子を受けて出産した子Zがいました。Zがうまれた後、XとYとは離婚することになり、調停離婚をしましたが、その際、Zの親権者の指定の審判申立てがなされており、その審判において、Yが親権者と定められました。
これに対し、Xが審判を不服として、即時抗告の申立てを行いました。
Xは、抗告理由として、人工受精子の場合には、ZとYとの間には真実の親子関係は存在せず、嫡出推定がはたらかないから、法律上当然の帰結として、Yが親権者に指定される余地はないと主張しました。
本件につき、東京高裁平成10年9月16日決定は、以下のように判断しました。
まず、夫の同意を得て人口受精が行われた場合には、人工受精子は嫡出推定の及ぶ嫡出子であると解するのが相当であるとし、YとZとの間に親子関係が存在しない旨のXの主張は許されないとしました。
その上で、人工受精子の親権者を定めるについては、未成年者が人工受精子であることについては、自然的な血縁関係がないことは、子の福祉に何らかの影響を与える可能性があるとして、これを考慮する必要があるとしました。ただし、当然に母が親権者にしていされるべきであるとまでいうことはできず、未成年者が人工受精子であることは、考慮すべき事情の一つであって、基本的には子の福祉の観点から、監護意思、監護能力、監護補助者の有無やその状況、監護の継続性等、他の事情も総合的に考慮して親権者を決すべきであるとしました。