皆様、はじめまして。
本年度より、弁護士として当所に勤務することになりました。
一件一件の事件に全力に取り組む所存ですので、どうぞよろしくお願い致します。
それでは、早速本題に入りたいと思います。
夫婦の間で、どちらが子供の監護者として相応しいか争いが生じている場合において、配偶者の一方が他方配偶者の下にいる子を連れてきたが、その経緯・態様に問題(違法性)があるとき、このことが監護者の指定にどのような影響を及ぼすかということがよく問題となります(勝手に連れ去らないと合意していたのに無断で連れ去る、夫婦の一方が他方に暴力をふるって子供を連れて行く等。なお、同居していた夫婦の一方が子を連れて家を出たとしても、これが子の連れ去りに当たるとはみなされていません。)。子を連れ去った行為に違法性がある場合には、奪取者の親権適格に疑問が生じるからです。
この問題について、最近の裁判所は、概して、連れ去った親に対して、厳しい態度を取る例が多いと言えます。ここで、いくつかの裁判例を紹介したいと思います。
①4歳の男の子について、面接交渉中に父が衝動的に子を連れ去り、1ヶ月ほど経過したという事案で、裁判所は、衝動的連れ去り行為からして、父はこの福祉を一番に据えて行動できるが疑問であるとして、本案の監護者指定で母となることを前提として、父に子の引渡しの仮処分を命じました(横浜家審平成14年9月13日)。
②離婚調停中、勝手に連れ去らないとの約束に反し、夫が妻の元から連れ去り、3歳の子は2ヶ月前まで母に安定的に監護されていたにもかかわらず、妻との試行的面接で大泣きをしたが、裁判所は、夫に引渡しの仮処分を命じました(横浜家審平成14年10月28日)。
③夫が、妻に無断で当時4歳の女の子を連れ出し、その後の裁判所による保全処分の決定にも従わず、人身保護手続にも出頭しなかった事案で、裁判所は、妻との面接調査の際、女の子が妻(母)に対し激しい拒否的態度を示した事情があることを考慮しても、5,6歳の子どもの場合、周囲の影響を受けやすく、空想と現実とが混同される場合も多い等と判断して、夫を監護者に指定した原審の判断を取り消しました(東京高決平成11年9月20日)。
以上のとおり、子の連れ去り行為に違法性がある場合、裁判所は、連れ去った側を監護者と指定することについて、かなり厳しい態度を取っていることがお分かり頂けたかと思います。
監護者の指定に関しては、子の現在の監護状況が安定していることも重要な基準の一つとして考えられています(継続性の原則)。しかし、子の連れ去りが違法と評価される場合には、その後に連れ去った側の親の下で安定した生活を送るようになったとしても、それは違法な連れ去り行為に基づく既成事実の積み重ねに過ぎず、必ずしも追認されるものではありません。
ただし、連れ去りが違法であるからといって、必ずしも全ての場合に連れ去った親の監護権が否定されるわけではなく、その後の安定した生活期間の長さ、子の年齢によっては、継続性の原則や子の意思が優先することもありえます。
また、そもそも、連れ去り行為が違法であると認定されうる事実関係は、現実的にはかなり限定的な場合が多いという面も否定できません。