こんにちは。今回は親権者の変更についてご説明したいと思います。

 民法819条6項によれば、「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。」とされています。

 親権の変更は、父母の一方が親権を有している場合を予定している手続ですので子が両親の共同親権に服している状態では親権変更の申立てはできません。
 また、民法819条は子の利益のための強行法規と解されており、仮に、協議離婚の際に親権者を変更しないという合意をして親権者を定めたとしても、その合意は無効です。

 裁判所が親権者を指定する場合は、父母のいずれを親権者とすることが子の利益及び福祉に適うかという観点から、諸事情を比較考慮して判断がなされます。
 これに対し、親権者の変更の場合は、比較考量ではなく、変更を必要とする特別の事情が要求されます。

 このような親権者の指定と変更の場合の判断基準の違いをご理解いただくために、裁判例(さいたま家裁審判平成22年6月10日家月62巻12号100頁)をご紹介します。

事案の概要

 Ⅹ(妻)とY(夫)は、平成10年×月×日に婚姻し、翌平成11年×月×日に長男が出生した。ⅩとYの間では口げんかになることが多く、平成20年×月×日、長男のことに端を発して、ⅩとYは大喧嘩となった。Yは、Ⅹとの生活に限界を感じ、同月×日埼玉県○○市の自宅を出て暮らし始めた。

 平成20年×月×日、YがⅩに対し夫婦関係調整調停事件を申し立てたところ、第3回目と第4回目の調停期日の間の同年×年×日ころ、Ⅹは長男を自宅に置いたまま実家に戻った。Yは、長男からの連絡でこれを知り、すぐに自宅に戻り、以後、長男と自宅で暮らすようになった。

 その後、平成21年×月×日、第5回調停期日で、長男の親権者をYと定めて調停離婚すること等が合意され調停が成立した。

 Yの勤務は3交代制で、3日に1回の割合で夜勤があるため、夜勤の日は長男が夜間一人で過ごすことになる。調停成立直後、Yは、児童相談所から、長男が夜間一人で自宅にいるのは、児童虐待にあたるとして生活状況を改善するように指導を受けた。

 同年×月×日には,未成年者が夜間一人で自宅にいる状態を改善しなければ,長男を一時保護し,施設入所させる措置を検討することになると通告された。

 平成21年×月×日、Yは長男に対し、一緒に暮らすことが困難であるから、今後の生活をどうするか意向を確認したところ、長男は、北海道○×市のYの実家で、祖父母の下で生活することを希望する旨を述べたので、1学期が終了した後から、○×市の祖父母の下で生活している。

 Ⅹは、Yは自ら長男を監護することを放棄した等を理由に親権者の変更を申し立てた。

裁判所の判断

 結論として、裁判所は、Ⅹの親権者変更の申立てを認めませんでした。

 本審判は「本件は,新たに親権者を定める場合とは異なるから,現時点の親権者による未成年者の養育監護状況が劣悪であるなど,未成年者の福祉に反する状態が認められる場合に,親権者を変更すべき事情があるというベきである。」として、親権者の指定と変更の場合の判断基準が異なることに言及したうえで、以下のような具体的事実をもとに判断をしています。

 ①本件事情の下で、○×市の祖父母に監護を委託するというYが採用した選択肢はやむをえないこと、②Yが、日常的に電話や手紙で長男と意思疎通を図り、Yが○×市に帰省の際には、父子での時間を楽しんでいること、③長男が、新しい環境に馴染み、生活上で心配な点は窺われないこと、④現時点で未成年者の生活環境を大きく変更することは未成年者自身が欲しないものであると解されることなどの事実をもとに、未成年者の福祉に反するというべき事情は認めらないと判断し、親権者の変更の申立てに理由がないとしています。

 事案の概要でみたとおり、本件のYは夜勤があるということから児童相談所の指導を受けて、埼玉県から遠く離れた北海道の祖父母に長男の監護を委託しています。
 このようなYの状況からすれば、本件が仮に、親権者の指定の問題であった場合、Yが親権者と指定されることは困難であったと思われます。

 本審判からも分かるように、親権者の指定と変更は子供の利益と福祉の観点から親権の所在を決める点では同様ですが、判断基準の違いから結論は大きく異なり得るのです。