この会話は全てフィクションであり、実在の人物や団体等とは一切関係がありません。
B夫「先生、最近読んだ本は何ですか?」
太田「おひとりさまの老後・・・いやね、つい最近文庫化されたので、話題になっていた本だからついつい。あはははは!」
B夫「あはははは! まあ、上野千鶴子先生の本ですしね~、何が書いてあるのか気にはなりますよね~。」
太田「そう、そうなんですよ(汗)。」
B夫「で、クリスマスはあえて一人で過ごす先生、お聞きしたいことがあるのですが。」
太田「・・・あの、ご相談の前に。B夫さん、今奥さんとお子さんと別居中なんですよね。B夫さんもクリスマスは・・・(仕返ししてやる!)」
B夫「僕はねえ、彼女がいましてね(ニコニコ)。」
太田「(なるほど、それが別居の原因か・・・)まあ、ほどほどにしておいてくださいよ。」
B夫「やだなあ、先生、うらやましがっちゃって!」
太田「(全然うらやましくないぞ!)とにかく、B夫さんは奥さんとお子さんと別居中で、奥さんから離婚調停を申し立てられて、もうすぐ第一回の調停の日だということでここに来られたんですね。」
B夫「そうなんですよ。どうしましょう?」
太田「事前にお話合いはされなかったのですか??」
B夫「何度かしましたよ。私の提案は、①子どもの親権は妻、②養育費は月額3万円、③面会交流は月に1回、④財産分与として、夫婦の預金を半分こする、⑤妻に慰謝料として100万支払う、てなところなんです。」
太田「で、奥さんは何と言いましたか?」
B夫「慰謝料と養育費があまりにも少なすぎる、と。そんなことを言うなら子どもには会わせない!って怒っちゃいました。あはははは!」
太田「あはははは! って、正直な話、これは奥さんが怒るのもいたしかたないですよ。B夫さんの年収からすると、養育費はだいたい月に6万円~8万円は支払わないといけませんし、それなりの結婚期間があって、不貞してしまったとすると100万では足りないですね。」
B夫「不貞だなんてとんでもない! 僕と彼女の仲は真剣そのものなんですよ? 親権獲得講座だけに、シンケン、なんちゃって、あはははは!」
太田「あはははは(棒読み)。もうちょっとまじめにお話しませんか。」
B夫「ごめんなさ~い。先生に一つお聞きしたいのですが、こんな風に、養育費と面会交流とをセットで話してくるっていうのはアリなんですか?」
太田「まあ、養育費をちゃんと支払わないなら子どもに会わせないという主張はよくありますけどね。でも、本当は別のものですよね。」
B夫「ですよね~。もし、僕が養育費を1円も入れないとしても、子どもに会う権利はあるんですよね?」
太田「一つ誤解があるのは、面会交流権というのは、必ずしもB夫さんだけの権利ではなく、お子さんの権利という側面が強いということなのです。ですから、全く養育費を支払わないとしても、お子さんのことを考えると・・・」
B夫「ほ~ら! 僕は調停に行っても養育費は月額3万円で通すぞ!!」
太田「なんて言うと、調停委員に説教されるのがオチですよ。それでも言うことをきかなかったら調停は不成立で裁判になりますね。」
B夫「じゃあ、別途面会交流調停を申し立てればいいのでは・・・?」
太田「やってもいいのですが、離婚のほうだけ裁判になって、調停で別に面会交流のことが話し合われることになります。妻側が不当な請求をしている事件であればそれでもいいのですが、B夫さんの場合は特に奥さんが不当な請求をしているわけでもないので。まあ、裁判のための時間と費用がムダですね。」
B夫「しかも、婚姻費用分担請求の審判まで申し立てられてるし。」
太田「奥さん、ちゃんと弁護士に依頼しているそうで、ぬかりがないですね。きっと不貞の証拠も出てきますよ。たまに婚姻費用の審判や調停を申し立て忘れる弁護士もいるんだけど・・・それはさておき、B夫さんのケースだと、長引けば長引くだけ損ということなのです。」
B夫「でも、養育費6万って払えないんですけど。いろいろと支払いがありまして・・・」
太田「そうしたら、その払えない事情というのを調停委員にこんこんと説明するしかないですね。ちょっとの減額であれば、奥さんものんでくれるかもしれません。向こうだって内心あんまり長引かせたくないでしょうし。」
B夫「でも、またそこで面会交流させないとか何とか言ってくるのでは?」
太田「とりあえず、面会交流のことはペンディングにして、それ以外のことだけ決めて離婚だけ先に成立させるというやりかたがないでもないですけどね。こちらはあえて現段階では面会交流の調停を申し立てないでおいて、『ここは面会交流について話し合う場ではないので!』ってやってしまう。調停条項の面会交流の項目がどうなるのかは問題ですが。」
B夫「でも、そうすると、私は当分子どもには会えないことになってしまうんでしょ?」
太田「おそらくなりますねえ。しかも、後で面会交流の調停なんか申し立てた日には、養育費の事でだいぶ文句を言われると思います。養育費が決まった直後には通常増額請求はできないわけですが、養育費が少ないことが面会交流に事実上悪影響を及ぼしかねないことは否めない。」
B夫「じゃあ、やっぱり養育費と面会交流は事実上は連動しているということなのですね。」
太田「お金をとるのか、お子さんに会うことをとるのか、それが問題なのですが、養育費は調停条項に載ってしまうと、支払わなければ給与の差押えまでできてしまううえ、破産しても逃げられない強い権利です。その一方で、面会交流は・・・」
B夫「知ってますよ。友達で調停離婚したやつがいますが、月1回の面会交流が認められたのに、いつの間にかグダグダになってしまって、今は子どもに会ってないって。」
太田「あまり言いたくないですが、そのグダグダを許してしまう男性も多いわけで。」
B夫「ということは、養育費の額を優先した方がいいということなのですか?」
太田「個人的な見解なんですけどね。無理な額を調停で決めて、後で払えなくなるよりよほどいいじゃないですか? お子さんだって、未来永劫会えないということではないし。」
B夫「養育費といっても、妻のフトコロに入るわけだし。」
太田「月額1000万円の養育費を請求されているという有名人の噂も・・・」
B夫「あきらかにヨメが自分のために使うんでしょうねえ。って、話がそれてますよ!」
太田「額もだいじですけど、ちゃんと毎月通帳に振込記録があることが重要なんですよ。それを将来お子さんが見たときに、『ああ、私はお父さんから捨てられたんじゃないんだ!』って実感がわくでしょうしね。」
B夫「西原理恵子さんの『ぼくんち』という漫画でそんなシーンがありました。」
太田「まあ、前に書いたように、大きくなってから会いに来るケースもありますしね。額よりも気持ち、実際に面会交流するかどうかよりも気持ち、ということで締めくくりましょうか。ところで、B夫さんはなぜ養育費があまり払えないということなんですか?」
B夫「じつはですね、今の彼女がですね・・・もごもご。」
太田「私には守秘義務があるので、遠慮しないでお話しください(彼女が妊娠でもしたかな?)。」
B夫「に、二次元なんですよ。関連グッズに7ケタ使ってしまって、それで消費者金融からお金を借りてて、その支払いが・・・。」
太田「今の相談、不貞の前提から誤りなので最初からやり直し!」
弁護士 太田香清