この会話はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は全て架空のものです 。
A夫「先生、親権獲得講座なんてブログ書いてますけど、最近親権そのものの話が出てきませんね?」
太田「正直な話、そうポンポン親権がらみの話題が提供できるわけじゃないですよ。せめて、男性に離婚調停・審判・裁判の際に有益な情報が披露できればなあ、と。」
A夫「なぜ男性ですか?」
太田「女性のための離婚の情報のほうが世間にたくさん出回っているような気がしますから、私が書くまでもないんじゃないかと。それに、何だか離婚って女性のほうが法的に色々有利なんですよね。」
A夫「だからあえて・・・ということなんですね。」
太田「そうそう、あえて、というのが好きなのです(笑)。」
A夫「先生、どうでもいい会話でブログの文字数を稼ぐのはもうやめにしましょう。」
太田「コ、コホン、ところで今日のA夫さんの相談はどういった?」
A夫「男性が親権で争うのって結構難しいじゃないですか。だったらいっそ離婚自体を争ってやろうかと思いまして。それで、インターネットを見てたら、夫婦円満調停っていうのがあったんですよ。離婚調停は知ってたんですけど、夫婦円満調停なんてあるんですね。」
太田「ありますね。」
A夫「で、先週別の法律事務所へ行って、『夫婦円満調停をやりたいんですけど、お願いします』って言ったら、おじいちゃん弁護士に笑われました。」
太田「まあ、奥さんがNOと言えばそれで終わってしまいますから。普通はあまり弁護士は勧めませんね。」
A夫「言われましたよ。『あんた、戻ってきてほしいかもしれんが、無理なもんは無理じゃ。離婚の条件を有利にすることを考えた方がいいんじゃないか? ん、親権?? ワハハハ!』って感じなんですよ。本当に頭にきて!」
太田「最後の大笑いは酷いですが、一般的な弁護士の見解ではあります。」
A夫「そのようですね。それで、『あえて』が好きな太田先生に相談しに来たのです。先生なら、私のケースで『あえて』何かやってみるとしたらどうしますか?」
太田「(そう来たか・・・)まず、監護者指定と子の引渡しの審判は厳しいですね。お子さんのことは全部奥さんがやっていたみたいですし。奥さんの育児・家事に特に問題はないみたいですので。」
A夫「はい。でも、僕なりに、家族が円満に暮らせるように努力してきたつもりです。」
太田「じゃあねえ、やっぱり夫婦円満調停を『あえて』やってみますか?」
A夫「それはさっき、意味がないと言ったばかりではありませんか!」
太田「前の先生は意味がないと言ったかもしれませんが、私はまだ言っていません。」
A夫「『まだ』ですか。じゃあ、これから言うんですね、とほほ・・・。」
太田「A夫さん、そんな後ろ向きなことばかり考えていたのではダメです。当たって砕けろ、ですっ!」
A夫「砕けるんですよね? 僕は砕けるしかないの・・・。え~ん!」
太田「な、泣かないでくださいよ(と言いながらティッシュの箱を渡す)。今、砕けるよりマシな案が浮かびました。」
A夫「ぐすっ、何ですか?」
太田「夫婦円満調停の・・・」
A夫「だから、それはムダなんでしょ? わ~ん!!」
太田「最後まで話を聞いて下さい! はい、鼻もかんで(再度ティッシュの箱を渡す)。」
A夫「ズズズ・・・ごめんなさい、興奮してしまって。」
太田「夫婦円満調停の一種なんですが、同居調停というのがあります。もちろん、審判から申立てしてもいいのですが。」
A夫「初めて聞きました。それは何ですか。」
太田「文字通り、別居している奥さんに同居しましょう、とお願いする調停です。」
A夫「あまり円満調停と変わらないように思いますが。」
太田「普通の円満調停と違うのは、調停がまとまらなければ審判へ移行するところです。」
A夫「審判になったらどうなりますか?」
太田「同居することに相当性があると認められれば、裁判所が同居命令を出します。」
A夫「じゃあ、妻は国家権力によって僕のところへ連れ返されるんですね。ひゃっほ~い!」
太田「と、ならないのが難しいところです。」
A夫「ちょっと!僕をからかうのはやめてくださいよっ!!」
太田「と、とにかく、話を最後まで聞いてくださいね。さすがに、嫌がっている奥さんを無理やりA夫さんのところに引っ張ってくるなんてことは、いくら国でもできません。しかし、裁判所は、奥さんにあなたとの同居義務があることを認めたわけです。」
A夫「じゃあ、同居命令が出た後も妻が別居を続けたら、それは国の命令に背いたということではあるのですね?」
太田「しかし、同居を強制することはできません。」
A夫「意味ないじゃん。」
太田「(なぜ急にぶっきらぼうに・・・)いやいや、全く無意味ということではないですよ。国が命令に背く人をただでおくと思いますか?」
A夫「え、留置所にブチ込まれるの? 罰金を払わされるとか??」
太田「それは絶対にありません。」
A夫「国!何とかしろよっ!!!」
太田「国に文句を言ってもしょうがないので話を先に進めますが(汗)、同居命令に背くと、奥さんは『同居しなくてはならない』という夫婦の義務に明確に反しているわけですので、奥さんのほうが有責配偶者であると認定されやすい、というメリットがあります。」
A夫「あ、有責配偶者からは離婚請求できないんでしたね。」
太田「そうそう。それなんですよ。あと、そうなると、A夫さんの気が変わって『離婚したい』となったときは、慰謝料請求もしやすくなりますしね。」
A夫「へ~。たしかに単に砕けるよりはマシっぽいですね。」
太田「まあ、同居命令が出るかどうかやってみないと分からないですけど、A夫さんのケースは別居期間が同居期間に比べて短いし、A夫さんに特に有責性があるようでもないですので、やる価値はありそうです。」
A夫「じゃあ、先生にお願いしちゃおうかな♪ ところで、先生、私生活の『あえて』ってありますか?」
太田「あえてクリスマスは一人で過ごします。」
A夫「それ、『あえて』じゃないし、僕も同じだし。わ~ん!」
太田「私も・・・わ~ん!」
弁護士 太田香清