先日、ある裁判所の離婚調停で財産分与の際に過去の婚姻費用を考慮して欲しいと伝えたのですが、調停委員から「過去の婚姻費用は請求できないんだよ。」という回答を頂きました。この回答を聞いて、この調停委員は大丈夫だろうかと思ってしまいました。
確かに、婚姻費用の分担請求の調停では、実務上、過去に支払われていない分があっても調停を申し立てた月から請求できるという取扱いをしていることは間違いありません。そのため、婚姻費用の分担請求の調停では、原則的には過去の婚姻費用を請求することはできません。
しかし、上記の離婚調停では、財産分与の際に過去の婚姻費用を考慮して欲しいと伝えたのであり、婚姻費用の分担請求の調停で過去の婚姻費用を請求したわけではありません。
財産分与について規定した民法768条3項は「一切の事情を考慮して」財産分与の額や方法を決定すると規定しています。つまり、過去の婚姻費用が支払われていないことも「一切の事情」に含まれるため、財産分与の際に過去の婚姻費用を考慮することはできるのです。実際、裁判例でも財産分与の際に過去の婚姻費用を考慮して、財産分与の額を算定したものがあります(東京地裁平成16年10月18日判決)
このような調停委員に当たってしまい大変残念ですが、依頼者が納得いく内容で調停を成立させるために、まずは調停委員を説得することから始めたいと思います。きっと、弁護士をつけずに調停を進めている方の中には、調停委員の誤った知識のために損をする方もいると思いますので、1人で調停を進めていて、調停委員の言っていることがおかしいと思った方は、1度弁護士に相談された方がいいと思います。
弁護士 竹若暢彦