外国人が日本人と婚姻関係にある場合、その婚姻が真摯なものであれば在留特別許可の判断において積極要素として大きく考慮されます。

 では、内縁関係にとどまる場合はどうでしょうか。

 この点、近時、日本人と内縁関係にあった外国人に関し、在留特別許可処分の義務付けを命じた裁判例があります。

裁判例:東京地判平成20年2月29日

事実

昭和63年5月11日原告(ガーナ共和国)は、「短期滞在」に相当する在留資格,在留期間15日の上陸許可を受けて入国し,その後在留期間15日の在留期間更新許可を受けたが,同年6月10日の在留期限を超えて本邦に不法残留。
平成18年9月4日原告を法違反(旅券不携帯)の嫌疑により現行犯逮捕。
平成18年9月25日不法入国の疑いで収容令書の発付,執行。
平成18年10月19日東京入管入国審査官は,原告が不法残留に該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨原告に通知,原告は,同日,口頭審理請求。
平成18年11月1日東京入管特別審理官は,入国審査官の認定は誤りがない旨通知,原告は,法務大臣に対し,法49条1項に基づく異議の申出。
平成18年11月7日東京入管局長は,異議の申出には理由がない旨の裁決,東京入管主任審査官は,同日,退去強制令書を発付、同日執行・収容。
平成18年11月8日原告は日本国籍を有するAとの婚姻の届出。
平成19年4月10日本件訴訟提起。

裁判所の判断

在留特別許可を与えなかった判断に裁量権の逸脱,濫用があるか否か
日本人と婚姻関係にある外国人に対して在留資格を付与するか否かは,当該日本人にとっては,配偶者の選択,住居の選定等,婚姻及び家族に関する憲法上の保護利益(憲法24条)に関わり,最大限の尊重を要する。この保護が及ぶ「婚姻」の範囲は,法律上の婚姻にとどまらず,内縁関係をも含むべき。
そうすると、両者の関係が,真摯な意思をもって共同生活を営むという婚姻の本質に適合する実質を備えているというような事実は重要な考慮要素として斟酌されるべきであり,他に在留特別許可を不相当とするような特段の事情がない限り,在留特別許可を付与しないのは,裁量権の逸脱,濫用となる。
本件では,原告とAは、Aが交通事故後遺症の療養のため実家に戻っていた一時期を挟んで,実に約16年もの長期にわたる共同生活を続けてきたものであり,内縁関係と呼ぶにふさわしい実質を備えたものであった。一時,Aが実家に戻っていたときには,内縁関係解消の危機が訪れたものの,原告の献身的な努力でこの危機を乗り越え,本件裁決の翌日には婚姻の届出も行った。そして,婚姻の届出が遅れたことについても,一応それなりの理由があったことも併せ考慮すれば,原告とAとの関係は,遅くとも本件裁決の時点においては,真摯な意思をもって共同生活を営むという婚姻の本質に適合する実質的な関係にあったといえる。
もっとも,原告は,約18年不法残留を継続し,この間不法就労,外国人登録法違反,警察官及び入国審査官らに対し嘘の供述をするなどしており、その在留状況が問題のないものであったとは言い難い。また、原告が本国に帰国したとしても,本国での生活に特段の支障はない。
しかし,これらのことをもって,在留特別許可を不相当とするような特段の事情とみることはできない。
以上により、本件裁決は,裁量権を逸脱,濫用した違法な裁決として取消し、本件退令発付処分も根拠を欠く違法な処分として取消し。現在では法律上の婚姻関係が成立していることを併せ考慮し,在留特別許可の義務付けも認める。

 この裁判例は、在留特別許可の義務付け訴訟を申請型と判断した点でも注目をされていますが(控訴審は非申請型とした)、外国人と婚姻(内縁)関係にある日本人の利益を尊重する観点から、二人の長期間に渡る真摯な共同生活を重視し、広範な裁量を有する在留許可の判断を覆した点でも注目すべきといえます。

 この事件の控訴審では、被控訴人の生活関係が,18年間を超える長期の不法残留という違法行為によって築かれたものであること、不法就労や外国人登録法違反,警察官及び入国審査官らに対する嘘の供述などの違法性が重視され、逆転敗訴しています。

 もっとも、被控訴人とAとの関係が婚姻と同視することができるか等についても触れており、判断の一考慮要素となることを前提としています。

 そして、その後、東京地判平成21年10月30日でも、日本人と内縁関係にありながら在留特別許可の判断までに婚姻が間に合わなかったイラン人男性に関し、在留特別許可を認めなかった裁決の取り消しが認められ、控訴はされていません。

 在留特別許可を取得するには、原則として、法律上の婚姻をしていることが必要です。しかし、その手続が間に合わなくとも、婚姻に準ずる真摯な関係で、素行も善良であれば、許可を与えない判断が違法とされる余地があるといえます。

弁護士 池田実佐子