みなさん、「不貞行為」と聞くと、どういったことを連想しますか。
ひとくちに不貞行為といっても、社会的用語として用いられる場合と、法律用語として用いられる場合とで異なってくると思います。おおざっぱに言えば、社会通念としての不貞行為は幅の広い概念であり、法律上の不貞行為とは限定された概念であるという違いがあります。
社会通念として用いるときには、人によりまちまちであるので、ある人は、夫か妻が隠れて第三者の異性と会えば不貞ということになるかもしれませんし、またある人は、キス等恋愛感情を持った身体的接触に至って初めて不貞だと言い、いや、セックスまでしなければ不貞ではないという人もいるでしょう。
つまり、社会用語としては、そのように使う人がある程度いれば、それを間違いとは決めつけられなくなるので、かなり緩い概念とならざるを得ないのです。
これに対し、法律上の不貞行為はそうではありません。ここが曖昧では、最後まで紛争が解決しないということになりかねないからです。
条文上は、民法770条1項1号に「配偶者に不貞な行為があったとき」、離婚原因になるという形で、不貞行為が登場しています。離婚原因としての定めであるから、上記表現となっていますが、一般には、配偶者のある側からみても、その配偶者と関係を持った第三者の方からみても、「不貞行為」と呼びます。
では、不貞行為の具体的な線引きはどこでなされるのかというと、最高裁判例、その他の裁判例からすれば、性交、いわゆるセックスがあったか否かで分けられるようです。性交を伴わない男女間は、キスをしたことがある等いかに密接な関係にあろうとも、不貞行為とはいえない、そう判断されているのです。
ただ、性交があれば即、不貞行為にあたるとしてしまうと、気が進まないのに強引に力ずくでそんな関係にさせられたという場合まで含まれることにもなりかねません。そこで、判例では、不貞行為を「配偶者ある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」とされています(最判昭和48年11月15日)。
ここからいえることは、もし、配偶者の不倫が発覚し、不貞行為として慰謝料を請求したいと考えた場合、性行為の存在を推認できる証拠まで確保されているか否かが、重要な意味を持つということです。訴訟になれば、そこまでの証拠の有無が勝訴敗訴を分けます。交渉においては、必ずしも勝訴判決をとれる証拠まで要求されるわけではありませんが、交渉が決裂しても裁判で勝てるものを押さえているかどうかは、交渉力に格段の差が生じます。
もっとも、性交までの証拠があるから、やみくもに訴訟提起してしまえというのは少々危険です。妻が不貞相手の女性を訴える場合、不貞をした夫が女性の味方についていたりすると、勝訴判決等を得てお金を取っても、家計を支える夫からそのお金が出て行っており、家庭内でお金が回っているにすぎないということも起こりえます。また、勝訴判決を得ても、相手にお金がなく、たいした職にも就いていないといった場合、その判決は紙切れ同然にもなりかねません。