一方的に婚約関係を不当に破棄された場合に、婚約者に対して慰謝料を請求できることは、このブログでも紹介していますが、今回は、婚約者の親が、婚約関係の不当破棄に関与していた場合、その親に対して慰謝料を請求することができるかという問題について検討します。
そもそも婚約者に対して慰謝料を請求できる根拠は、婚姻予約の不履行という点にあります。つまり、婚約したことにより契約を締結し、その契約を婚約者が不当に破棄したことを理由に慰謝料の請求が認められるのです。
そうすると婚約者の親は契約当事者ではないので、債務不履行を請求の根拠とするのではなく、不法行為(民法709条)を請求の根拠とすることになります。
不法行為の場合、違法性が要件として必要になるのですが、どのような場合に違法といえるのでしょうか。母親が自分の娘の婚約者に対して、自分の娘と婚約者の両親が円満な協力関係を形成することが見込めないと考え、「結婚式に参加しない」などと言って婚約解消を決意させたという裁判例(東京地裁平成5年3月31日判決)が違法性の内容について判断しています。
この裁判例は
「婚約当事者以外の者が婚約当事者に対して婚約を解消することを決断させた場合においても、同様に、精神的損害に対する損害賠償義務が発生するのは、その動機や方法等が公序良俗に反し、著しく不当性を帯びている場合に限られるものというべきである。」
と違法性の内容について判断しました。
そして、この裁判例では、単に親が自分の子に対して、婚約者の親族との円満な協力関係の形成が見込めないことを理由に子に婚約解消を迫っただけでは違法性は認められないと判断して、婚約を解消された原告の請求を棄却しました。
親が婚約破棄に関与して不法行為が認められた事例は、婚約者が被差別部落出身であったために、父親が自分の息子に婚約解消を迫ったというものがあります(大阪地裁昭和58年3月28日判決)。
このように、相当悪質な理由により婚約破棄を迫っていない限り、親に対して婚約破棄の慰謝料は請求できないようです。
弁護士 竹若暢彦