以前、婚姻無効について、全般的にお話ししたことがありました。今回は、婚姻の無効とはどのような場合に生ずる問題なのか等、具体的な例を挙げて、少し詳しく説明してみたいと思います。
まず、婚姻するには、婚姻の届出とその届出時に二人とも婚姻意思があることが必要になります(民法739条1項、742条1号)。
もっとも、手続的には、婚姻届は二人そろって出しに行く必要はありません。婚姻しようという当事者のどちらか一方が役所に行けば足ります。さすがに、当事者以外の誰か友人に出しに行ってもらうというわけにはいきません。
出しに行くのは当事者のうちの一人であっても、婚姻届に署名捺印するのは、二人が各々自分で行う必要があります。上述した届出時の婚姻意思の存在を証する意味でも、各自が直筆で婚姻届に署名しなければならず、一方の代筆は認められないのです。
婚姻届をよく見てみると、「◎署名は必ず本人が自署してください」との注意書きがあります。ただ、この書き方からすると、逆に言えば、署名以外の記載事項は他の人に代筆させることも可能という考えが成り立ちえます。
ただ、本人が自署しなければならないといえども、真実、本人が書いたのか、誰かが本人になりすまして書いたのか、役所の職員が見分けられるものではありません。それゆえ、住所、本籍、生年月日等の他の記載すべき個人情報が何らかの原因で漏洩すると、その情報を記載した上で、署名と捺印を偽造して、一人で窓口に行けば、比較的簡単に架空の婚姻関係を作り出せてしまうわけなのです。
そこで、一番多いのは、外国人が日本人の個人情報をどこからか入手し、その日本人との婚姻届を提出して、配偶者ビザ(査証)を取得するといった悪用です。
もちろん、こういった行為は、有印私文書偽造、公正証書原本等不実記載罪という犯罪(刑法159条1項、157条1項)にあたりますが、外国人にとって、そんなもんはどこ吹く風よとばかりに、それより、日本における出入国管理及び難民認定法19条1項の活動制限を受けずに活動できるようになること(同法別表第二)の方が重要なのです。そういう意味でも、個人情報漏洩は怖いといえます。
こういった不都合が生じないように、婚姻届は二人で窓口に出しに行かなければならないとする国もあります。我が国では、そこまでは求められていませんが、届出に来た方には身分証明書の提示を要求し、来なかった方には、後日、本人確認の通知を郵送するという形をとって、上記悪用を防止しようとしているようです。
なお、外国人が日本人と結婚すると、日本国籍を取得できると思っている人もいますが、実際にはそうではありません。国籍法は、婚姻によって外国人配偶者に日本国籍を付与する法制をとっていないのです。外国人配偶者が日本国籍を得ようとすれば、帰化の手続をとらざるをえません。もっとも、日本人配偶者の場合、帰化の要件が緩和されることになります。