昨年は、尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件や機密情報を公開するウェブサイトの一つであるウィキリークスでアメリカ政府の機密情報が流出するなど、機密情報の流出が話題になりました。

 夫婦関係では、配偶者の機密情報ともいえる犯罪行為を告訴(告発)することは離婚原因になるようです。

 古い判例に夫婦の一方が他方の不正行為を摘発する行為が、離婚原因である旧民法813条5号の重大な侮辱に該当するかが問題になったものがあります。

 現在の民法でいえば、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当するかが問題となります。この判例は、夫が刀剣類を所持していたことを妻が通報し、夫が罰金刑の処分を受けたため、妻の告発行為が、夫に対する重大な侮辱であるとして夫から離婚請求がなされた事案です。

 最高裁は、妻が夫の家庭内の秘事を摘発して夫を罪に陥れたことは、それがもともと夫に罪責があるとはいえ、また夫婦の仲が破局の最後の段階に達している際であるとはいえ、まだ夫婦である限り夫婦道に違反し、夫の名誉を著しく毀損するものであって、改正前の民法813条5号の重大なる侮辱に当たると判断しました(最高裁昭和27年6月27日判決)。

 この事案では、まず、最初に妻が夫に対して離婚の申し入れをして、妻に有利な条件で離婚しようとしたのですが、夫が妻の要求を拒絶したため、妻が夫の刀剣類の所持について告発すると脅して妻の要求を夫に受け入れさせようとしたという事情がありました。つまり、もともと妻は離婚意思を持っており、自分に有利な条件での離婚を夫に受け入れられなかったために告発したのです。

 このような事情があれば、配偶者の犯罪行為の告発が離婚原因になると判断されたのもやむを得ないように感じます。

 では、夫婦関係の回復を願って配偶者の犯罪行為を告訴した場合にも、離婚原因に該当するのでしょうか。以下のような裁判例があります。

 くも膜下出血で倒れリハビリ中の夫が、無断で離婚届けを提出した妻を刑事告訴したため、これが婚姻を継続し難い重大な事由に当たるとして、妻から離婚請求がなされた事案で、裁判所は、夫の告訴が婚姻を継続し難い重大な事由に当たるとして妻の離婚請求を認容しました(東京地裁平成4年6月26日判決)。

 夫は、妻が無断で離婚届けを提出したことについて、有印私文書偽造・同行使罪で告訴したのですが、それだけでなく、不起訴処分になると検察審査会に不服申し立てをし、さらに、保護責任者遺棄罪でも妻を告訴しました。夫は、このようなことをした理由について、妻や子供との家庭の回復を願って話し合いの機会を持つためであると主張しました。

 しかし、裁判所は、妻を告訴したことや検察審査会に申し立てをしたことが、妻との会話を求めてのやむを得ないというものではなく、その域を著しく超えていることは明らかであって、二人の婚姻は、継続することが不可能なほどに破たんした状態にあると判断して妻の離婚請求を認容しました。

 また、裁判所は、配偶者を刑事告訴しながら他方で婚姻関係を維持することは常軌を逸した行為というほかなく、「理由の如何を問わず」、婚姻を継続し難い重大な事由があると述べています。

 この事案は、先にあげた事案と異なり、配偶者との関係改善のために配偶者を刑事告訴した事案です。ところが、結論としては、いずれの事案においても配偶者を刑事告訴(告発)したことは離婚原因に当たると判断しています。

 これは、後の事例で裁判所が述べているように、どんな理由があっても配偶者を刑事告訴することは、夫婦関係においてはその関係を破たんに導くものであるということなのでしょう。

 そうすると、たとえば、覚醒剤中毒の夫の社会復帰を望んで、妻が覚せい剤取締法違反で夫を刑事告発した場合にも、夫が離婚請求すれば、離婚が認められることになってしまいます。個人的には、このような場合には、婚姻を継続し難い重大な事由があるとまではいえないような気がします。

弁護士 竹若暢彦