前々回で婚姻関係の破綻についてお話ししたとき、別居は客観的事実として、婚姻関係の破綻を示す有力な証拠となり得る旨述べました。そして、別居期間が3年あたりが離婚原因として、裁判上認められている目安の長さであるという説明もしました。
 (記事はこちら:婚姻関係の破綻

 しかし、こういった話を聞くと、離婚したければ急いで別居しなきゃ、話し合いが付かないならひっぱたいてでも家を出ようなんて考える人もいるかもしれません。そんなことをすると、「悪意で遺棄」(民法770条1項2号)されたと相手から主張され、自ら離婚原因を作った有責配偶者の立場に置かれかねません。そうなってしまっては、有責配偶者の離婚請求に最低限必要な別居期間8年という、通常の3年より遙かに高いハードルが設定される事態を招きます。

 そこで、悪意の遺棄とは、どういった場合を指すのか、悪意の遺棄とされない別居とはいかなる場合なのか等を把握しておく必要がありそうです。

 一般に、悪意の遺棄とは、正当な理由なく、合理的な夫婦として要請されている同居、協力、扶助義務(民法752条)を履行しないことをいうとされています。

 まず、別居するわけですから、上記同居義務には違反していることになります。となると、正当な理由なくというところを崩す必要があります。ただ、暴力を使った別居や不倫相手のところに転がり込む別居などは正当な理由のないことが明らかですが、それ以外はその判断が微妙な場合が多い気がします。

 別居する際は、何らかの行き違い、けんか、騒動があったはずであり、その理由は何だと問われても、やれ夫が身勝手すぎる、妻が怠惰だといったような双方言い分があり、一方的に何れかが悪いと決められない場合が多いと思う訳なのです。

 とすれば、夫婦間の出来事など、二人にしかわからないということをうまく利用し、ともかくも別居した上で、相手があーだからこーだからともっともらしく色々理由を並べ立てる等の作戦もありかなといった感があります。

 それは、別居を隠れてではなく、きちんと告げた上で、粗暴な方法ではなく、至って平穏に行うことこそが重要であり、理由は後からいくらでも付けられる、極端に言えばそういうことです。ただ、相手が病気で、明らかに誰かの助けが必要だといったような心身の特殊事情がある場合には、穏便に別居しても悪意の遺棄とされてしまうでしょう。

 また、別居がうまくいったとしても、相手より収入が多いにも拘わらず、生活費を全く渡さなかったりすると、上記の扶助義務を履行していないとされ、悪意の遺棄となってしまうので注意してください。