こんにちは。弁護士の山本祐輔です。
 今回のお題は、風俗で遊ぶことが、民法770条1項1号により離婚事由とされている不貞行為に該当するかです。

 「不貞行為」の解釈について、判例は「配偶者ある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義しています(最判昭和48年11月15日民集27-10-1323)。

 風俗遊びは配偶者以外の者と性的関係を結ぶことと考えれば、不貞行為となりそうです。ただ、当該判例は「性的関係」と述べるのみで、如何なる関係に至れば性的関係と認められるかまでは判示していません。仮に性的関係を性交に限定して解釈するなら、現在の日本の性風俗は性交を行わないことを建前としているため、風俗遊びを行ったという事実のみで不貞行為を立証することには困難が生じ得ます。

 また、「性的関係」を緩やかに解して、およそ性風俗店において提供されているサービスはすべて含むというようにしても、なお風俗遊びを行った事実と不貞行為を結びつけるために考慮しないとならないことはあり得ます。そもそも、不貞行為が離婚事由となるのは何故なのでしょう。

 この点について、東京高判昭和37年2月26日下民集13-2-288は、説が分かれているとしながらも、不貞行為を「夫婦間の性的純潔に対する一方当事者の裏切ということを核心とする観念」と述べています。そして同判決は、不貞行為となるためには「夫婦関係と一方当事者の性的裏切行為の存在」が前提として求められるとしています。

 夫婦関係の存在を求めているため、風俗遊びの時期に夫婦関係が破たんしていたなら、不貞行為とは認められない可能性があります。

 また、風俗遊びが一方当事者の裏切りと認められるものでなければならないようです。確信的に風俗通いを行っているならともかく、酔って酒の勢いで遊んでしまった、あるいは取引先との接待の関係上断れなかったなどの場合に、これが配偶者への裏切りとまで言えるかは微妙だとも考えられます。興味本位で風俗遊びをしてしまったが一度きりでやめた場合なども、裏切りというには程度が低いと判断されるかもしれません。

 もっとも、風俗遊びが不貞行為に該当しないと判断されても、その他事案の全事情を総合的に考慮して婚姻関係の継続に困難が生じていると判断されれば、民法770条1項5号により離婚が認められることがあり得ます。

 最後に、東京地判平成17年7月27日(判例集未登載)は、離婚訴訟の被告について風俗店で遊んだという事実を認定しながら、この事実のみでは「被告が特定の女性と性的関係を持つこと」とは言えず、不貞行為は認められないと判示しています。