家庭裁判所で、子どもを引き渡せという審判が出たのに、子どもを自分に引き渡してくれない・・このような場合、どのような法的手続きをとったらいいのでしょうか。

(1)履行勧告

 このような場合には、その審判をした家庭裁判所に「履行勧告」を申し立てることができます(家事審判法15条の5、25条の2)。ただ、履行勧告は文字どおり、履行を「勧告」するだけで強制力がないため、あまり実効性は期待できません。

(2)強制執行

 強制執行には、間接強制と直接強制という二つの種類があります。

 まず、間接強制とは、ある行為をしない場合は一定の金銭の支払うことを命じることによって、相手を心理的に強制して権利の実現を図る方法をいいます。

 たとえば、「子どもの引き渡しを完了するまで一日当たり○万円支払いなさい」という命令を裁判所に出してもらうことになります。もっとも、たいていの親にとってはお金より子どもの方が重要でしょうから、このような命令に従って、素直に子どもの引き渡しに応じるかどうかは疑問があります。

 そこで、直接強制という方法を検討することになりますが、これは、国家権力が権利の内容を直接に実現する方法をいい、子どもの引き渡しの場合は、執行官が強制的に子どもを権利者の元へ連れて来るという方法になります。

 直接強制というと、財産の差し押さえや建物の明け渡しのイメージが強いので、子どもを物のように扱って、引き渡しを拒む親の元から引き離すようなことをするなんて・・と抵抗を感じる方もいるかもしれません。でも、せっかく子どものために裁判所が引き渡しを命じる審判をしても、相手が拒んでいる限り実現できないのでは、せっかく審判をした意味がなくなってしまうため、子どもの引き渡しの事件でも基本的には直接強制が認められています。

(3)直接強制の手続き

 直接強制を行うためには、子どもの引き渡しを命じる内容の確定判決、確定審判、調停調書等の債務名義が必要です。これがあれば、子どもの住所地を管轄する地方裁判所の執行官に対して、子どもの引き渡しを求める強制執行の申し立てを行うことができます。

 子どもの引き渡しの強制執行では、引き渡しの対象が物ではなく、子どもですから、子どもの人格に配慮して、子どもの福祉に適した執行方法を取る必要があります。

 そのため、十分な事前調査を行い、

① 子どもの監護の状況
② 現在監護している人の性格や行動傾向
③ 執行を実施した場合に予想される反応等の必要な情報

を、申立人から執行官にきちんと伝えておく必要があります。

 また、子どもを権利者の監護下にスムーズに移すことができるよう、子どもを引き取る権利者は、立ち会い可能な日を執行官と打ち合わせておき、執行当日の連れ帰りの方法、服や持ち物等についてあらかじめ準備しておかなければなりません。

 しかし、このようにきちんと準備をしておいたとしても、やはり引き渡しの対象が子どもという一人の人間である以上、物の引き渡しとは違う難しさがあります。たとえば、相手方が子どもを抱えて引き離さない場合や子どもが逃げ出す等して権利者に引き取られることを強く拒んでいるような場合、また、相手方が子どもを連れて執行場所以外の場所に逃げ込んで出てこない場合などには、現場での執行官の判断により、執行不能となってしまうこともあります。

 そのような場合は、その日の執行は諦めて再度申し立てを行うしかありませんが、親同士の争いに巻き込まれて子どもが傷つかないように、子どものことを第一に考えて行動したいものです。

弁護士 堀真知子