前回、「離婚の方法」で、離婚の訴えの中で一番多い離婚原因が770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」だというお話をしました。
 そこで、今回は、婚姻破綻の原因の一つである、配偶者からの暴力・虐待を取り上げたいと思います。

 さて、どの程度の暴行・虐待があれば「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められると思いますか?

 過去の裁判例では、「ちょっとしたことにも興奮しやすく暴力を振るい、灰皿代わりに使っていた茶器で妻の頭を殴打し傷害を負わせるなど時として常軌を逸した凶暴振舞いに及ぶ夫の暴力行為」や、「妻が夫に対し、一晩中タオルを持っただけの裸でベランダに放置し、子ども用二段ベッドで就寝することを強制し、背広やネクタイをハサミで切ったり、就寝中にペーパーナイフを持って襲いかかり腕や額に軽傷を負わせ、水やみそ汁、ミルクの類をかけたりする虐待的行為」は「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると認定されています。

 これらの例では、明らかに度を超した暴力・虐待が繰り返されていますが、果たして、同じくらい激しい暴行・虐待でなければ婚姻の破綻は認められないのでしょうか?答えは、NOです!

 妻が夫の暴力を主な理由として離婚を求めた裁判で、婚姻生活が6年間だったのに対し、別居期間は約1年間と比較的短く、暴行の常習性もなく(3回)、暴行の程度も比較的軽微な事案でしたが裁判所は、婚姻関係の破綻を認めました。
 担当した裁判官は、年配の男性でしたが、「暴行の回数が少ないとか、暴行の程度が軽いとかは問題ではない。」とおっしゃいました。このケースでは、妻から、別居の1年以上前に夫から暴行を受けて出来たあざの写真などが証拠として提出されました。あざそのものはそれほど酷いものではなく、暴行態様・回数より、むしろ、妻が別居する相当前から証拠収集を重ねていたことから、妻の離婚意思が強固で、もはや婚姻関係の修復は不可能と判断されたものと推測されます。
 「婚姻を継続し難い重大な事由」は、婚姻生活に現れた一切の事情を考慮して判断されるというわけです。

弁護士 石黒麻利子