こんにちは。
今日は、監護者指定の審判とその審判前の保全処分についてお話します。
婚姻中だけど別居している夫婦間において、別居中にいずれが子どもを養育するか、ということが争いになることがあります。本来、婚姻中ですから、双方の親が子どもの親権者ですが、別居しているので、片方の親が子供を育てざるをえません。そこで、監護者(実際に子どもを養育する者)指定の審判を申し立てることがあります。通常、子どもの福祉のために、いずれの親が監護者として適切か、という視点から、監護者が定められることになります。
また、監護者指定の審判とともに、審判前の保全処分というものを申し立てます。これは、「監護者指定の審判の結論が出るまで待っていては、子どもの福祉に反するから、結論が出る前に、仮に、子どもの監護者を決める。」というものです。
保全処分申立てが認められるには、保全の必要性と、本案(監護者指定の審判)が認容される蓋然性が必要です。このように、保全処分申立が認められるためには、監護者指定の審判が認容される蓋然性が必要ですので、自然と、監護者指定の審判と保全処分申立てが認容されるかどうかの結論は、一致することが多いです。
結論が一致しなかった例として以下の例があります。
事案
夫Aと妻Bとの間には、子どもが3人いた。夫Aの暴力、不貞、暴言などにより、妻Bは心因反応により療養が必要と医師の診断を受け、やむなく子どもたちを夫の下に残して家を出て別居した。
妻Bは、子どもたちの引き渡し(子の監護に関する処分の一つです)を求める審判と、その審判前の保全処分を申し立てた。
東京高裁平成15年1月20日決定
保全処分について
「子らは、現在、夫Aの下で一応安定した生活を送っていることが認められ、保全の必要性を肯定すべき切迫した事情はない」旨を述べて、保全処分を認めませんでした。
引き渡しの審判について
「子らと母の精神的結びつき、母への思慕の念の強さ、子らの母の下で生活したいという意向、父の母に対する暴力を目撃した子らの心情、父は母と子の面接交渉に非協力的であることなどから、父と子の面接交渉に柔軟に対応する意向を示している母に子らを監護させ、父母双方との交流ができる監護環境を整えて、子らの情緒の安定、心身の健全な発達を図ることが望ましい。」旨を述べて、引き渡しを認めました。
このように、審判と保全処分の結論が一致しなかった理由は、保全処分はあくまでも「強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するための必要があるとき」(家事審判規則52条の2)と定められているところ、本件では、子どもたちが夫の下で一応安定した生活を送っているから、子どもたちに対する急迫の危険性はないと判断されたためです。
このような考え方を貫くと、仮に妻が監護者となった方が子どもの福祉のためになるような場合でも、一応、現状が安定していれば、あえてその現状を変えるべく保全処分をする必要はない、ということになりそうです。