こんにちは。
 本日は、子どもを奪った方が、親権や監護権の争いで有利になるのか、ということを考えてみたいと思います。

 確かに、親権者や監護者を決める一つの基準に、現状維持の原則はあります。

 しかし、現状では、一方の配偶者が子を監護養育しているとしても、その配偶者が親権者や監護者になることが子の福祉にかなうかを慎重に判断する必要があるのではないでしょうか。

 こんな裁判例があります。

東京高裁平成11年9月20日決定
平成10年1月 夫が夫婦関係調整調停申立
     7月 夫が子A(4歳)を連れて家を出て、所在不明に。
すぐに妻が自分を監護者に定める審判、Aの引き渡しの審判、Aの引き渡しの保全処分を申立て、離婚訴訟を提起した。
     8月 夫に対し、Aの引き渡し仮処分命令
     10月 夫の抗告棄却(つまり「Aを妻に引き渡せ」ということ)
         しかし夫は裁判所の決定に従わない意向を示した。
         監護者指定及び引き渡し請求事件について、妻とAの面接調査→Aは妻(母)に拒否的態度

 第一審は、夫を監護者として指定し、妻への引き渡し請求を却下しました。

 その理由は、夫はAの監護養育を自分の母に委ねていること、しかし、夫と妻の監護者としての適格性等は優劣つけがたいこと、Aが妻に対して拒否的態度を示したこと、などです。

 しかし、第2審は、第1審の審判を取り消して、第1審に差し戻し(第1審でもう一度判断し直すということ)ました。

 その理由として、まず、夫が裁判所の保全処分の決定にも従わず、そうこうしているうちにAが次第に夫との生活に安定を見出すようになったという側面があるのであって、その現状が安定しているからといって、安易に現状を追認することは相当でないということが挙げられました。また、Aのような5,6歳の子どもの場合、周囲の影響を受けやすく、空想と現実とが混同される場合も多いので、たとえ妻に対する拒否的態度があったとしても、直ちに子の意向として採用し、重視するべきではないことも理由に挙げられました。

 結局、実力行使で子を奪い、囲い込んで現状維持を図るのが必ずしも有効ではないということですね。