こんにちは。
 本日は、離婚の際の名字(ここから、「氏(うじ)」といいます。)の変更についてお話したいと思います。

 先日、「離婚後も婚姻中の氏を名乗りたい。でも、子どもが高校を卒業してから、子どもとともに婚姻前の氏に戻したい。これは可能でしょうか?」という相談を受けました。もしこれが可能であれば、そのお子さんは現在10歳ですから、8年間は婚姻中の氏、その後になってやっと婚姻前の氏になることになります。

 民法上は、原則として、離婚により婚姻前の氏に戻る(「離婚復氏」といいます。)とされています。しかし、離婚から3ヶ月以内であれば、届出をすることにより、婚姻中の氏を続けて使うことができるとされています(「婚氏続称」といいます。)。つまり、離婚復氏が原則で、婚氏続称は例外です。

 次に、いったん婚氏続称をした人が離婚復氏する場合には、戸籍法上の氏の変更の規定が適用されます。戸籍法上、「やむを得ない事由」がある時には、裁判所の許可を得て氏を変更することができるとされています。

 そこで、どのような事由であれば「やむをえない事由」といえるのか、が問題となります。

 一般的には、

① 婚氏続称の届出後、その氏が社会的に定着する前か
② 氏の変更の申立てが恣意的でないか
③ 第三者が不測の損害を被るなどの社会的弊害が発生する恐れがないか

などを基準に「やむを得ない事由」の有無を判断しています。

 でも、婚氏続称していた人が婚姻前の氏に戻る場合にも、厳密にこれらの条件が判断されるのでしょうか。原則に戻るだけだから、自由にしていいんじゃない?と思いませんか。

 判例は、婚氏続称していた人が婚姻前の氏に戻るのは、原則に戻ることになる点を重視し、一般の氏の変更の場合に比べて、「やむを得ない事由」を柔軟に解釈しています。

 では、離婚後何年経っても婚姻前の氏に戻ることができるのでしょうか。上記条件の①を重視すれば、婚氏続称があまりに長い期間続いている場合には、氏の変更は認められなくなりそうです。

 この点について、大阪高裁平成3年9月4日決定は、婚氏続称の期間が約11年に及んでいる事案について、婚姻前の氏への変更を認めました。変更したいと思った理由は、「A」という婚氏を続称して、別の氏の両親と住んでいたところ、自分あての郵便物が近所の「A」姓のお宅に誤配達されてしまうことが続いたためでした。

 このような理由であっても認められるのですから、「やむを得ない事由」についてそれほど厳しい判断はなされないようですね。

 冒頭に挙げた例では、たしかに年数は8年と長いですが、事情によっては離婚から8年後に婚姻前の氏へ変更することも認められるということになりそうです。