当ブログでも何度か話題になっている「有責配偶者からの離婚請求」について、今回のテーマは、有責配偶者からの離婚請求が例外的に認められる要件の一つである、「夫婦の間に未成熟の子が存在するかどうか」についてです。

 まず、大前提として、民法では、客観的に婚姻関係が破綻している場合には離婚を認めるべきという考え方(これを「破綻主義」といいます)に基づいて、「婚姻を継続し難い重大な事由がある場合(=婚姻関係が破綻していて回復の見込みがない場合)」を離婚原因の一つに挙げています(770条1項5号)。

 この点、最高裁は、婚姻関係が破綻している場合であっても、有責配偶者からの離婚請求は許されないという立場を長らく取っていましたが、昭和62年9月17日判決において、以下の要件を総合的に考慮した上で、有責配偶者の離婚請求も認められる場合があるという判断を示しました。

【要件】
① 夫婦の別居が当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるかどうか
② 夫婦間に未成熟の子が存在するかどうか
③ 相手方が離婚により精神的・経済的に極めて過酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような事情が存在するかどうか

 では、②の「夫婦間に未成熟の子が存在するかどうか」という点ですが、「未成熟の子」とはどのような意味でしょうか。

 まず、「未成熟子」と「未成年」とは異なります。未成熟子の範囲は、子の福祉の観点から、親から経済的に独立して生計を営むことを期待できるかどうということで決まります。従って、何歳以上であれば未成熟子ではない、というような明確な数量的基準はありません。未成熟子かどうかは判断するには、離婚によって子の家庭的・教育的・精神的・経済的状況がどれだけ悪化するか、親の監護なしでは生活を保持できないか、という子の福祉からの実質的な考慮が必要です。

 この点、成人している子であっても、その子が重度の四肢麻痺の症状を有しており、着替え、食事、入浴等の日常生活全般にわたり介護が必要な状況にある場合には、実質的には未成熟の子と同視できると判断した事例があります(東京高判平成19年2月27日)。

 たしかに、このような場合には、子は母親の介護なしには日々の生活を送ることができないわけですから、子の福祉の観点から未成熟子と判断したことは妥当だと思います。

 また、このような場合には、その子と同居して日々の介護を行っている親は、その子を放置して外で働いて収入を得るということは難しいでしょうから、離婚すれば経済的に困窮するであろうことは容易に予想できますので、上記③の要件の「相手方が離婚により精神的・経済的に極めて過酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような事情」も存在すると判断されることとなり、結局有責配偶者からの離婚は認められないことになるでしょう。

弁護士 堀真知子