今回は、前回紹介した婚約の際になされることが多く、婚約破棄の場合、どのように扱うかが問題となる「結納」、「結納金」について触れてみたいと思います。
結納とは、一般的には、婚姻により当事者の両家が親族となって「結」びつくことを祝い、贈り物を「納」め合う儀式をいいます。結婚が本人同士だけではなく、両家の結びつきと考える日本古来の風習に基づくといわれています。
その形式は、小笠原流、伊勢流等の礼法により体系化されていますが、最近では、そういった格式ばった用法を踏まない簡略式結納が多いようです。通常は、新郎側から新婦側へ、金銭(結納金)を送り、結婚式の前に両家の顔合せ会が行われるといった類のものです。私的な儀式ではあるものの、この結納が行われれば、前回述べた「婚約」は成立したものと認めらることになります。
そうすると、婚約後に何らかの理由で婚姻まで至らなかった場合、結納金は返すべきかという問題が生じます。結納金は、上述したように、あくまで両家が婚姻により結びつくことを前提とした祝い金と考えられるからです。
結納を法律的に解釈すると、手付とする見方もありますが、解除条件付贈与と構成するのが通説的見解です。
つまり、結納金(金銭以外の物の場合もある)の贈与が「婚姻不成立」という条件の成就によって解除され、その効力を失う性質のものと考えるわけです。
判例も結納について、「婚約の成立を確証し、あわせて、婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与である」としています(最高裁昭和39年9月4日判決)。裁判実務において、婚姻不成立の場合には、結納金は原則として返すべきものとされていますので、上記最高裁判決も解除条件付と明示しているわけではありませんが、考え方は通説的見解に沿うものといってよいでしょう。
もっとも、婚姻不成立がもっぱら贈与者側の責任による場合にまで、結納金の返還を認めるのは不合理です。下級審判例において、破談につき有責性のある当事者からの結納金返還請求は、信義則上許されないものとして棄却されています(東京高裁昭和57年4月27日判決)。有責者の返還請求が排斥されるのは、法律的には、故意に婚姻不成立という解除条件を成就させた場合、条件不成就とみなされると解することになります(民法130条類推)。
なお、婚約後の婚姻不成立についての有責者側は、前回説明したように、債務不履行による損害賠償責任を負います。したがって、結納金の返還請求が認められないのみならず、さらに損害賠償金を支払わなければならないわけです。とすると、有責者側から結納金を損害賠償金に充ててくれといった要求があっても、「結納金はそもそも、そっちのものではなくなっているので、更に支払え」と言えるわけです。
また、婚約後婚姻には至らないものの、内縁状態になったという場合、どのように扱われるでしょうか。一般には、内縁に至れば、いったんは両家の結びつきという結納の目的は達成されたものとして、その後の返還請求は認められなくなると考えられています。内縁を婚姻に準ずると考える準婚理論からすれば当然かもしれません。