離婚の法律相談を受けていると、結構多いのが、旦那さんが奥さんにだまって多額の借金を作っていて、それが奥さんに発覚して、「夫と離婚したいのですが…」という相談です。こんな旦那さんでも、結婚後にできた財産があれば、奥さんは離婚のときに財産分与を請求することができます。
では、財産分与の話もうまくまとまり、晴れて離婚が成立したら、奥さんは旦那さんから何の問題もなく財産分与を受けることができるでしょうか?もし、旦那さんが財産分与をする前に破産しちゃったら…
こんな場合でも奥さんは財産分与を受けることができるのでしょうか?
夫の借金が原因で、妻が離婚と財産分与を求める裁判を起こして、離婚及び1000万円の財産分与の支払いを認める判決が言い渡された後、夫が自己破産してしまった場合に、妻が破産管財人に対して財産分与の金銭の支払いを請求できるかが問題になった最高裁判決があります(最高裁平成2年9月27日判決)。
ちょっと難しい話になりますが、破産管財人というのは、破産手続きが開始されると、破産者の財産を管理する仕事をする人です。また、破産者の財産に破産者以外の第三者の財産が含まれていたときには、その第三者は自分の財産を取り戻すことができます。これを取戻権といいます。
先の最高裁判決は、取戻権の行使として、財産分与の金銭の支払いを請求することができるかについて判断したものです。まあ、簡単にいえば、妻が「私の1000万円が夫の財産に含まれているから、返しなさいよっ!」って請求した事案です。
最高裁は、財産分与請求権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求することはできないと判断しました。理由は、財産分与がなされても、妻は夫に対し金銭の支払いを求める債権を取得するだけで、その債権額に相当する金銭が妻に当然に帰属するわけではないからということです。
つまり、妻が夫から1000万円の財産分与を受けても、それは、夫に1000万円を請求する権利を得ただけで、1000万円の金銭そのものを得たわけではないからってことです。
もし、借金が原因で旦那さんと離婚する場合、財産分与を確実に受けるまで、旦那さんに自己破産しないように言い聞かせないとだめですね。
弁護士 竹若暢彦