こんにちは。
昨今、不景気で、借金を抱えている人は多いものです。離婚の相談にいらっしゃる方も、自身に借金はないけれど、夫に多額の借金があるということは、多々あります。
夫に多額の借金があると、どのような問題が生じるのでしょうか。
夫に多額の借金があると、仮に調停や訴訟で夫に慰謝料や養育費の支払義務があるということになっても、実際には支払ってもらえない事になります。または、調停は基本的には話し合いなので、夫が「払えない」という主張を繰り返して、養育費や慰謝料の大幅減額を求め、一刻も早く離婚したい妻としては、この減額に応じざるを得ないということになります。
では、妻は離婚したくないけれど、借金を抱えた夫が離婚したがっている場合はどうなるのでしょうか。
この場合、夫は、多めの解決金の支払いや多めの財産分与をしなければ、妻を説得して離婚に応じてもらうことはできません。そこで夫は、例えば、自宅を売って、その利益で多めの解決金を支払おう、という考えに至ります。
そこで次に問題となるのが、その売却利益を全て妻に対する財産分与や解決金の支払に充ててしまってもいいのか、ということです。たしかに、妻からしてみれば、売却利益を全てもらいたいでしょう。しかし、そこには問題が潜んでいます。
夫が借金まみれの場合、夫が破産するリスクがあります。そうすると、実は以下のように、妻はせっかくもらった分与財産や解決金を、手放さなければならない可能性が出てきます。
破産手続においては、破産者(この場合は夫)が持っている財産を、債権者(貸金業者など)に分配しなければなりません。この分配は、すべての債権者に対して公平に行わなければならず、もしも破産者が破産状態になってから財産を一部の債権者に対して流出させる行為があれば、その財産流出は破産管財人(破産者の財産を管理する人)によって、「否認」されてしまいます。「否認」というのは、簡単に言えば、その財産流出はなかったことにして、元々の状態に戻すという手続です。ですから、「否認」されると、流出した財産を受け取った人は、それを破産管財人に返さないといけないことになります。
どのような財産分与や慰謝料の支払いが否認されるかについては、詐害行為取消しという手続の判例が参考にされています。
財産分与については、「民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情」がない限り、詐害行為取消しの対象とならない(つまり、そのような特段の事情があれば、詐害行為取消しの可能性があるということ。)とされ、慰謝料については、「離婚に伴う慰謝料として配偶者の一方が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額を支払う旨の合意は、右損害賠償債務の額を超えた部分」について詐害行為取消権の対象となるとされました。これは、破産手続の否認についても同様に考えられています(「詐害行為取消し」というところを「否認」に置き換えてみてください。)。
以上のような手続が想定されますので、妻は、売却利益をまるごと1000万円もらったからといって、喜んでばかりもいられません。
また、妻は、「夫が破産してもいいから、取れる財産は全部取ってやりたい。」と言ってねばり続けるのも考えものです。夫に多額の借金がある場合は、夫から財産をとることではなく、その他に解決方法を見つけなければならないかもしれません。