A.
実親であるAさんはお子様に対し扶養義務を負っていますが、実務上、養親の扶養義務は実親の扶養義務に優先するという考え方が有力であるため、家庭裁判所に対し、養育費の減額調停(ないしは審判)の申立てを行えば養育費の減額が認められる可能性があります。

【解説】

1 実親と養親の子に対する扶養義務の順位

 親は未成熟子に対して扶養義務を負うため(民法877条1項)、離婚後であってもAさんは原則としてお子様が成人するまでは、養育費を支払う義務があります。

 もっとも、今回のケースではAさんの元妻が再婚し、お子様が再婚相手Bさんと養子縁組をしているということですので、実親であるAさんと養親であるBさんがいずれもお子様に対して扶養義務を負うことになります。このように、実親と養親が存在する場合に、未成熟子に対する扶養義務の順位をどのように考えるべきかが問題となります。

 様々な見解があり得るところですが、実務においては、実親と養親の扶養義務の順位については、養子制度の本質から養親の扶養義務が実親の扶養義務に優先すると考える見解が有力です(札幌家裁小樽支部昭和46年11月11日審判、長崎家裁昭和51年9月30日審判、神戸家裁姫路支部平成12年9月4日審判等)。

 したがって、養親に資力がなく充分に扶養義務を履行できないなどの事情がない限りは、第一次的に扶養義務を負うのは養親であって、実親は次順位で扶養義務を負うものと考えるべきでしょう。

2 養育費減額の手続について

 このように、本件においては、Bさんの扶養義務がAさんの扶養義務に優先すると考えることができます。ところで、Aさんと元妻との間では、毎月10万円の養育費を支払う合意が成立しているとのことですが、Bさんとお子様の養子縁組以降、Aさんの養育費支払義務は自動的に消滅するのでしょうか?

 答えは「NO」です。

 民法880条は、「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる」と規定しており、同条の準用または類推適用により、当事者間で養育費減額の合意が成立する場合を除いては、家庭裁判所に対して、養育費の減額調停(ないしは審判)を申し立てる必要があるため、養育費支払義務が自動的に消滅することはありません。

 なお、Bさんの扶養義務がAさんの扶養義務に優先するとしても、Aさんがお子様に対して扶養義務を負っていることに変わりはありませんので、養育費の支払義務が免除される(0円になる)とは限りません。養育費の支払義務が免除されるのか、それとも一定程度の減額にとどまるのかは、養親及び実親の資力、お子様の扶養の必要性等、様々な事情を考慮して判断することになるでしょう。