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財産分与や慰謝料など、離婚した場合夫との収入差が事実上影響しうる場面はありますが、直ちに損であるとはいえないでしょう
むしろ、今後別居を続けていることで夫から婚姻費用の請求をされる可能性があるので、離婚を決意しているのであれば、離婚をした方がかえって得な場合も考えられます。

 離婚して「損をするのかどうか」というご質問ですが、本来は離婚による損得の評価は人それぞれとも言えるでしょう。しかし、それでは回答になりませんから、ここでは単純に収入差がある場合、離婚をする場合としない場合とで金銭的な損得の違いは出るのか、という観点でご説明します。

1.離婚をする場合

 離婚をする場合、子どもや財産のことといった様々な条件を決める必要がありますが、その際、夫より収入が多いことで損をする可能性がある場面としてまず財産分与が考えられます。 財産分与とは、婚姻期間中夫婦で協力して築いた財産を離婚時に分配することであり、夫婦は離婚時に財産分与の請求をすることができます(民法768条)。
 この財産分与の対象となる財産ですが、基本的に名義は関係なく、婚姻中に取得した財産であれば財産分与の対象となります(特有財産といった例外はあります)。また、分配の割合は2分の1が原則です。

 そうすると、例えば婚姻中に夫婦共同、若しくは各自で貯金をした場合や、住宅、車等を購入した場合、収入の多い質問者様の方が貯金額やローンの負担が事実上大きいことがあるかもしれませんが、そうだとしても離婚時の財産分与ではきれいに半分ずつとされてしまうことで損をしてしまう、ということが起きうることになります。

 次に、損をするとまではいかないのですが、夫の収入が300万円であるということが影響しうる場面として「離婚慰謝料」が考えられます。
 夫が不倫をして、これが原因で夫婦関係が破たんしたと認められる場合には、夫には慰謝料の支払い義務が発生することになります。
 しかし、低収入の夫から慰謝料を得る場合、回収の問題、すなわち現実にどうやって支払わせるかは気を付ける必要があります。収入300万円の夫から数百万単位の慰謝料を得ようと思っても、夫は中々一括で支払うことはできないでしょう。そうすると、分割で少しずつ支払ってもらわざるを得ないので、回収に時間がかかるという点は夫が低収入であるが故の影響といえるかもしれません。
 もっとも、質問者様の場合、前述した離婚時の財産分与と絡めて慰謝料の問題を解決することも可能です。具体的には、財産分与時に夫が本来取得する予定の財産から質問者様が夫に対して請求する慰謝料分を差し引くこととし、事実上慰謝料を得たのと同様の状態とすることです。

 なお、夫の収入が低い、若しくは収入差があることを理由に慰謝料額が極端に低くなるということはあまりないと思われます。慰謝料というのは、不倫やそれを原因とする離婚によって受けたであろう精神的・肉体的苦痛に対して支払われる金銭を言いますから、慰謝料の金額を決める際は婚姻期間や不倫の期間及び回数等が重視され、慰謝料を支払う者の収入や収入差はあまり重視されないからです。

 このように、夫より高収入であるからといって、離婚をすることで直ちに損をする可能性は高くないと言えます。特に、質問者様の場合、離婚後も2人のお子さんを養育していくのであれば夫に養育費の請求をすることができますので、離婚することで損をするとはますます言いにくくなると思われます。

2.離婚をしない場合

 さて、ここまでの説明で離婚の際に収入差が原因で損する可能性は高くないことがお分かりいただけたと思いますが、反対に、離婚しないまま別居生活を続けた場合は、かえって収入差が不利に働く場面があります。それは「婚姻費用」です。
 婚姻費用とは、夫婦間で分担する家族の生活費のことをいい、夫婦間で別居している場合、収入が高い者が低い配偶者に一定額の生活費を渡す必要があります。
 質問者様のケースでも、現在別居中でかつ、夫の収入よりも質問者様の収入が大きく上回っているため、夫が質問者様に婚姻費用の請求をしてくる可能性は十分に考えられます。

 もっとも、婚姻費用の支払義務は夫婦関係が継続していることを前提としたものですから、不貞行為をする等、夫婦関係を一方的に破たんさせた者(このような人を「有責配偶者」といいます)が婚姻費用の支払いを請求する場合、その請求は認められないか、認められたとしても相当程度減額される可能性があります。
 質問者様のケースの場合、そもそも夫の不倫が別居の原因でしょうから、夫から婚姻費用の請求をされても、夫が有責配偶者であることを主張して支払いを拒める可能性が考えられます。

 また、婚姻費用の支払義務は婚姻関係の終了、すなわち離婚によってなくなりますので、婚姻費用の支払いを求められる前に離婚を成立させることで、別居を続けるよりも経済的負担が軽くなりますし、上述のように、離婚後質問者様がお子さんを養育するのであれば夫に養育費を請求できる可能性がありますから、かえって離婚をした方が得と言うこともできるでしょう。

3、まとめ

 以上、離婚による損得をまとめてみました。非常に長くなってしまいましたが、ここで紹介したのはあくまでも質問者様の状況から想定できる一例にすぎません。
 財産分与、慰謝料、婚姻費用のいずれも少し事情が変わることで損得が全く変わってしまうことがあります。
 それら全ての事情に応じた回答をすることはとてもこのページでは書ききれません。自分は離婚をすると得なのか、損するのかでお悩みでしたら、やはり一度弁護士等の専門家に相談してみることをお勧めします。