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ご依頼者様の夫がギャンブルのために借り入れた多額の借金は、夫婦共同生活と無関係な個人的な債務であることから、財産分与の対象になりません。したがいまして、ご依頼者様は、夫が勝手に作った借金を負担しなくて構いません

 財産分与制度は、夫婦が婚姻期間中に築いた共有財産を離婚に際して清算するという趣旨で設けられた制度です。そのため、財産分与の対象となる場合があるのは積極財産だけであって、債務については分与の対象とすることが予定されていないと考えられてきました。もっとも、最近の実務においては、夫婦が協力して得た積極財産が分与の対象となるのと同じように、債務についても分与の対象となる場合があると考えられています。
 例えば、東京地裁平成11年9月3日判決は、

「債務についても夫婦共同生活の中で生じたものについては、財産分与に当たりその債務発生に対する寄与の程度(受けた利益の程度)に応じてこれを負担させることができる」とし、「その負担割合は、財産形成に対する寄与の場合と同様、特段の事情のない限り平等に解するべきである。」

としています。このような最近の実務の流れからすると、婚姻期間中の債務は一律に財産分与の対象とならないというわけではなく、その債務の発生原因を個別具体的に検討して財産分与の対象となるかどうかを判断しています。

 まず、婚姻生活を維持するために必要な債務については、財産分与の対象になります。具体的には、生活費の不足を補うための借入れや教育ローン、住宅ローンの借入れがこれにあたります。
 これに対して、夫婦共同生活と無関係な個人的な債務は、分与対象財産とはなりません。これは、財産分与制度が、夫婦が共同生活において築き上げてきた夫婦共有財産の清算という法的要素を含むことからして、当然のことです。それゆえ、夫婦共同生活とは関係のない個人的な遊興費やギャンブルなどの賭け事による借金、個人の趣味のための借金、身内や友人に融資するための借金、相続債務などはたとえ婚姻期間中に発生したものであっても財産分与の対象になりません。

 したがいまして、ご依頼者様の夫の借金は、ギャンブルのために借り入れた借金であって、夫婦共同生活と無関係な個人的な債務であることから、財産分与の対象にならないでしょう。