A.
特段の事情がない限り、返す必要はありません。このようなケースで夫が返還請求をする根拠としては、①財産分与、または②贈与の取り消しのいずれかが考えられます。

 まず、①については、そもそも財産分与とは「婚姻期間中に夫婦で形成した財産」、つまりは共有財産が対象になるので、今回のバッグが夫婦共有財産といえるかが問題となります。

 この点については、贈与の経緯等にもよりますが、普通に考えれば、夫がバッグを使うとは考えられないので、このバッグは、夫婦の財産としてではなく妻個人の財産とするために、つまりは妻の特有財産とするためにこのバッグを贈与したものと考えられます。
 そのため、本件のバッグは妻の特有財産であり、夫が①財産分与を根拠として返還請求をすることは難しいと考えられます。

 次に、②については、夫と妻の間には贈与契約(民法549条)が成立しているものとして、これを取り消して返還を求めるというものです。

 ⑴ 本件では、前述のとおりバッグは妻個人へのプレゼントと考えられるため、夫と妻との間では贈与契約(民法549条)が成立していると考えられます。

 ⑵ 贈与は、書面によらない贈与であれば、履行の終わっていない部分について撤回が可能です(民法550条)が、本件では、夫はすでにバッグを渡しているので、履行は完了しており、書面によらないものであったとしても撤回は不可能です。

⑶ また、受贈者が贈与者から受けた恩に背くような著しい背信行為を行い、かつ、贈与の効力を維持することが贈与者にとって著しく酷と言える場合には、例外的に、贈与の取り消しが認められる場合があります。これを「忘恩行為」による贈与の取り消しといいます。
 もっとも、本件では、普通に考えれば、バッグのプレゼントは夫婦が円満なときにされたと考えられ、背信行為であるとは言い難く、この例外に該当する可能性は低いと考えられます。
 例えば、夫がこれまで妻や妻の親族に対して多額の援助をしてきた中、さらに「別れる前にできるだけふんだくってやろう」などと考えて、離婚の意思を固めていたにもかかわらず多額の贈与を誘引したなどの悪質な事情があれば、この例外に該当する可能性はあります。もっとも、これはあくまで例外的なケースであり、贈与の取り消しは余程のことがないと認められません。
 そのため、②贈与の取り消しという主張をもってしても、夫からの返還請求が認められる可能性は低いものと考えられます。

 以上をまとめると、特段の事情がない限り、夫からの請求は認められず、妻はバッグを返還する必要はないと考えられます。
 このことから、夫側としては、あげたものは返ってこないという認識でプレゼントをすべきといえますし、妻側としては、トラブル防止のために、夫婦が危機的な状況にある中で、無闇に高額なプレゼントを受け取るのは避けるべきといえるでしょう。