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一審の千葉家裁の判断は、欧米的な「フレンドリーペアレントルール」(より相手に寛容な親を優先する基準)を重視した異例の判断とも評価されていたようですが、つい先日、東京高裁において上記判断が下されたことにより、「現状の監護者の監護養育が安定しており、子が生活環境にも適応しているときにはこれを重視する」という、いわゆる継続性の原則(青林書院出版 髙橋信幸・藤川朋子著「子の親権・監護の実務」108頁)を重視する日本の人事訴訟実務の姿勢が、再度確認されたように思われます。なお、家庭裁判所実務においては、子の奪取行為があった場合には、その違法性の程度を十分考慮し、継続性の原則の適用については慎重に判断しておりますが(同書109頁)、別居前の主たる監護者が母であれば、違法な監護の開始とは認めないか、違法な監護の開始があるとしながらも違法性の程度が低いとされ、母の監護養育の継続性が認められることが多いようです(同書113頁、大阪高裁平成17年6月22日決定参照)。
将来のことはどうなるか分かりませんから、現状、未成年者が順調に成長しており、未成年者自身が現在一緒に居住している親と今後も住むことを強く希望しているのであれば、現在未成年者を監護している者が親権者となることが適切だという判断過程には妥当性があるように思われます。本件でも、未成年者が母親のもとで心身共に健全に生活しており、未成年者自身も母親と一緒に生活することを望んでいたといった事情が重視されたようです。
父母のどちらを親権者とすべきかという問題は、答えのない問題と言っても過言ではないほど非常に難しい問題であり、だからこそ、夫側も妻側も、それぞれ命がけで主張を戦わせることとなります。いずれにしろ、現在、過去、将来の諸般の事情を総合的に考慮し、何が未成年者のためによりbetterな選択かを判断しなければならないでしょう。
今回紹介させて頂いた事案では、さらに最高裁でも判断が仰がれる予定のようです。どのような結果になるにしろ、未成年者が両親の想いや愛情を正確かつ十分に受けることのできる環境づくりこそ大事ですから、今後は、面会交流の頻度、方法についても決めていくことになると思われます。