【事例】
 A子さんは、夫であるB男さんからの酷い暴言に長年苦しめられてきましたが、「子どもが成人するまでは・・・」と耐え忍んできました。
 先月、お子様が社会人となり立派に巣立ったことから、ついにA子さんは勇気を振りしぼり、B男さんに対し、「長年、あなたの暴言に耐えてきましたがもう限界です、離婚してください!」と訴えました。
 ところが、B男さんは不敵に笑い、「俺は離婚なんて恰好悪いことをするつもりはないから、協議離婚には絶対に応じないぞ。お前は俺と違ってバカだから知らないだろうけど、裁判上の離婚原因が成立するためには、何年間も別居しないといけないんだぞ。金もないのにどこで暮らすっていうんだ!」と言い返してきました。
 A子さんは、「このままB男さんからの酷いモラハラに耐え続けるしかないのかしら。」と絶望し、涙にくれました。

 果たして、本当にA子さんは離婚をすることができないのでしょうか?

 民法770条1項1号は、①配偶者に不貞な行為があったとき②配偶者から悪意で遺棄されたとき③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき、そして、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき、を裁判上の離婚事由と定めています。

 一般に、別居が長年継続している場合には、婚姻関係は破綻しているといえ、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由に該当する場合が多いと言えます。

 そして、別居期間が短い場合であっても、モラハラの態様によっては、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由として裁判上の離婚が認められるケースもございます。
 大阪高等裁判所平成21年5月26日判決は、別居期間が1年余りの事案でしたが、一方配偶者が、他方配偶者に対し配慮に欠けた言動を行って、その者の心情を深く傷つけていた上、このような精神的打撃を理解しようとしない姿勢であったこと等を考慮し、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由に当たると判断しました。

大阪高等裁判所平成21年5月26日判決判旨

① 控訴人(夫),被控訴人(妻)の結婚生活は,大きな波風の立たないまま約18年間の経過をみてきた。

② しかし,齢80歳に達した控訴人が病気がちとなり,かつてのような生活力を失って生活費を減じたのと時期を合わせるごとく始まった被控訴人による控訴人を軽んじる行為,長年仏壇に祀っていた先妻の位牌を取り除いて親戚に送り付け,控訴人の青春時代からのかけがえない想い出の品を焼却処分するなどという自制の薄れた行為は,当てつけというには,余りにも控訴人の人生に対する配慮を欠いた行為であって,これら一連の行動が,控訴人の人生でも大きな屈辱的出来事として,その心情を深く傷つけるものであったことは疑う余地がない。

③ しかるに,被控訴人はいまなお,控訴人が受けた精神的打撃を理解しようという姿勢に欠け,今後,控訴人との関係の修復ひとつにしても真摯に語ろうともしないことからすれば,控訴人と被控訴人との婚姻関係は,控訴人が婚姻関係を継続していくための基盤である被控訴人に対する信頼関係を回復できない程度に失わしめ,修復困難な状態に至っていると言わざる得ない。

④ したがって,別居期間が1年余であることなどを考慮しても,控訴人と被控訴人との間には婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる。

 上記裁判例に従えば、A子さんのケースでも、B男さんの暴言が、単なる夫婦喧嘩等の範囲を超えて、A子さんの人生に対する配慮を欠き、A子さんの人生の中でも大きな屈辱的出来事として心情を深く傷つけるものであれば、⑤婚姻を継続しがたい重大な事由として、裁判上の離婚事由に該当する場合であると言えます。
 また、仮に、モラハラの程度がそこまで至らないケースでも、どうしても離婚を望まれる場合には、ひとまず別居して頂き、離婚事由に該当するだけの別居期間が経過するまでの間、婚姻費用分担請求により生活費を確保する、という手段もございます(なお、執行の可能性等は別途検討しなくてはいけません)。

 一般的にはほぼ不可能と思われがちケースでも、裁判例等の知識を駆使すれば打開策が開ける場合も多くございます。まずはご相談ください。