前回に引き続いて重婚的内縁関係と遺族厚生年金についてお話をします。
 (前回の記事はこちら:重婚的内縁関係と遺族年金①

 重婚的内縁関係にある者と法律上の配偶者のいずれが年金受給者となるのかについて争われた事件が、大阪高判平成26年11月27日です。

 事案の概要は以下の通りです(なお、亡くなった夫をA、Aの法律上の配偶者をB、Aと内縁関係にあった者をCとします。)。

 平成7年ごろAとBは家庭内別居となり、平成8年3月にBが突然子供を連れて家を出た。平成8年7月にAは同居再開をBに提案したが拒絶された。平成9年ごろまでは手紙等の音信はあった。AはBに婚姻費用として月額20~30万円、賞与時に12~30万円を支払っていたほか、平成9年に自宅を売却した際には、500万円をBに支払った。

 平成12年ごろ、Aは弁護士に離婚調停の相談をもちかけ、Bにも離婚を考えてくれるよう手紙を送った。また、このころAはCと交際を開始し、その旨Bにも伝えた。

 平成13年ごろ、Bからの応答がないことに業を煮やしたAは、婚姻費用の支払いを打ち切り、養育費月額13万円の支払いに切り替えることをBに伝えた。これに対しBは、婚姻費用分担調停を申立て、婚姻費用を月額15万円とする調停が成立したため、Aは亡くなるまで右の支払いを続けた。

 平成19年になって、肝腫瘍を罹患したAは、入院により支払い余力がなくなったこと、余生を安楽に過ごすために離婚してほしいことをBに伝えた。これに対しBは、婚姻費用支払い打ち切りに正当な理由がないこと、離婚には最低720万円の支払い及び年金分割が必要であることなどを回答した上、婚姻費用支払いのための強制執行申立てを行った。

 Aは、Bの示す条件を満たせないことから、離婚をあきらめた。

 平成20年9月、Aは肝細胞癌により死亡した。この間、Aの看病等はCが仕事を休んで行い、Bは見舞いに来ることもなかった。Bは葬儀にも参列せず、喪主はCが務めた。Aの死後、Aのカード利用代金等はCが清算した。

 以上を前提に、原審である大阪地裁は、別居の原因がAとBの不和にあり、Bが一方的に別居した事実、別居期間が12年6か月と長いこと、Bが一貫して修復の努力を行っていないこと、Aも平成12年以降は同様であること、平成12年以降は音信等も途絶していること、他方で同年ごろ以降はAとCの内縁関係が安定かつ固定化していることなどの事実を認定しました。その上で、AとBの間に一定程度の経済的依存関係があったことは事実だが、A死亡時にはAB間の婚姻関係は実体を失って形骸化し、事実上の離婚状態にあったものと認定しています。
 これを前提に、大阪地裁は、Bは法59条1項の「配偶者」にあたらず、逆にCが「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として、「配偶者」にあたると判断しました。

 これに対してBは控訴しましたが、大阪高裁は、Bの控訴を棄却する判断を示しました。その理由として大阪高裁は、「事実上の離婚状態にあるかどうかは、戸籍上の配偶者の生活実態に即して判断すべきであり、別居の経緯、別居期間、婚姻関係を維持ないし修復するための努力の有無、別居後における経済的依存の状況、別居後における婚姻当事者間の音信及び訪問の状況、重婚的内縁関係の固定性等を総合的に考慮すべきであって、経済的依存の状況がないことが事実上の離婚状態を認めるための必須の要件とまでいうことはできない。」、また旧社会保険庁の通知については、「通知は、上級行政機関が下級行政機関に向けて、行政の統一的かつ円滑な処理を行うために、一定の解釈・指針を示したものにすぎず、法令には当たらない。したがって、かかる通知に司法権を担う裁判所が拘束されることはない。」と示しています。

 要するに、法律上の配偶者であっても、事実上の離婚状態にある場合には、遺族年金の受給にあたって内縁関係にある者に劣後する、すなわち負けることがあるということです。そして、「事実上の離婚状態」にあるかどうかはいろいろな事情を総合的に判断するのであって、「経済的な依存関係」はその一要素に過ぎず、それがあるからといって離婚状態にないとはいえないし、逆にないからといって離婚状態といえるかどうかもわからないということです。また、旧社会保険庁の通知は一つの目安ではありますが、裁判所はそれにしばられないということも言っています。

 この事件の判旨は、極めて常識的なところを示したものといえるのではないかと思います。
 とはいえ、離婚や夫婦の別居に関しては、この裁判が示すように様々な紛争がつきまといます。
 この事件のように、死後にまで紛争の火種が残り続ける場合もあるわけです。

 弁護士に早期に相談することで、このような紛争を回避できる場合もあります。離婚等の問題に直面しておられる方は、弁護士法人ALG&Associatesまでご相談ください。