夫婦間に何らかの理由で亀裂が生じ、別居に至ることは珍しくありません。このような場合には、夫婦のいずれかから夫婦関係調整のための調停が申し立てられ、場合によっては離婚のための裁判が提起され、いずれかの段階で離婚に至るというのが一般的な流れです。

 しかし、法的手続をとる経済的余裕がないとか、当事者の一方に離婚意思がなく、また法の定める離婚原因もないために法的な離婚が難しく、法的には婚姻状態が継続したまま別居が続くというケースもあります。

 また、このような別居状態の中で、一方の配偶者が新たに事実婚等の状態に入ることもないことではありません。これが、重婚的内縁関係と呼ばれる状態です。

 このような状態において、配偶者の一方、殊に経済的主柱であった方が亡くなった場合、その者が厚生年金に加入していると、遺族厚生年金の受給権が他方配偶者に発生します。
では、重婚的内縁関係の場合に、遺族厚生年金の受給権を有する「他方配偶者」とは、法律上の配偶者(別居中の配偶者)なのでしょうか。あるいは、内縁関係の配偶者なのでしょうか。

 遺族厚生年金の受給については、厚生年金保険法(以下、「法」といいます。)及び関係法令によって次のように定められています。

法58条1項

 遺族厚生年金は、被保険者または被保険者であった者(以下「被保険者等という。」が死亡した場合等に、その者の遺族に支給する。

法59条1項

 遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者等の配偶者等であって、被保険者等の死亡の当時、その者によって生計を維持したものとする。(同4項)被保険者によって生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は政令で定める。

厚生年金保険法施行令(以下、「法施行令」という。)3条の10

 …被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していた配偶者等は、当該被保険者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者その他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とする。

 以上の規定を受けて旧社会保険庁が次のように通知を発しています。

「事実婚関係の認定について」(昭和55年5月16日付庁保発15号通知)

 届出による婚姻関係にある者が重ねて他の者と内縁関係にある場合の取扱については、…届出による婚姻関係を優先すべきことは当然であり、したがって、届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているときに限り、内縁関係にある者を事実婚関係にある者として認定するものとする。

「事実婚関係の認定について」(昭和55年5月16日付庁保発13号通知)

 15号通知にいう「届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているとき」とは、

① 当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を完全に廃止していると認められるが戸籍上離婚の届出をしていないとき
② 一方の悪意の遺棄として夫婦としての共同生活が行われていない場合でその状態がおおむね10年以上継続し、固定しているとき

 などがこれにあたる。
 なお、「夫婦としての共同生活の状態にない」とは、

(ア) 住居を異にする
(イ) 当事者間に経済的な依存関係が反復して存在しない
(ウ) 当事者間に音信又は訪問等の事実が反復して存在しない

 のすべての要件を満たすことが必要である。

 以上の定めに従うと、別居状態で発生する婚姻費用の支払いが続き、他方配偶者が婚姻費用を軸に生活費をまかなっている場合、婚姻費用の支払いを受けている法律上の配偶者には、「経済的な依存関係が反復して存在する」ということになります。そうすると、遺族厚生年金の受給者は法律上の配偶者ということになりそうです。

 しかし本当にそうなのでしょうか。この点について争われた裁判があります。
 これについては次回に。