民法は、「相続人は、単純承認をした時は、無限に被相続人の権利義務を承継する」と定めています(民法920条)。そのため、限定承認という特別な手続きをとることなく単純に相続をした場合、相続人は、不動産、預貯金、現金、株式等といったプラスの財産だけではなく、被相続人が生前負っていた借金や保証人としての責任等マイナスの財産もすべて承継することになります。

被相続人の借金や責任などマイナスの財産を相続したくないという場合は、相続放棄の手続きをとることが効果的です。

相続放棄の手続きは、相続放棄の申述書を作成して家庭裁判所に提出して行う必要があります(民法938条)。家庭裁判所に申立てをすることなく、他の相続人に対して意思表示をしたり、債権者に相続を放棄した旨を伝えたとしても、相続放棄の効果は生じませんので注意が必要です。

なお、相続放棄をするのであれば、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に」しなければならない(民法915条1項)ことにも併せて注意しておきましょう。

相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかったものとみなされ(民法939条)、被相続人の借金を支払う必要や連帯保証人としての責任など全うする必要がなくなります。
相続放棄の際には、申請をすることにより、家庭裁判所から「相続放棄申述受理証明書」の交付を受けることができます。当該証明書は自身が相続放棄をしたことの証明となりますので、被相続人の債権者が被相続人が負っていた債務の履行を請求してきた場合、当該証明書を提示すれば、自身が責任を負っていないことを証明できることになります。

相続放棄をすると、被相続人が負っていた借金や責任から免れることができますが、預貯金や不動産といった財産も相続することはできなくなる点に注意が必要です。仮に被相続人が負っていた借金や責任等を上回るプラスの財産(不動産や株式、預貯金など)が後から見つかったとしても、原則として相続することはできなくなってしまいますので、相続放棄をする際には、相続財産を適切に把握しておく必要があります。