今回は、前回に続いて、人事訴訟の手続や判決の効力等について、通常の訴訟とは異なる点などを話していこうと思います。
まず、訴訟能力についてですが、民事訴訟の場合、原則として民法上の制限行為能力者制度が適用されます(民事訴訟法28条)。
ただ、民法では、法定代理人の同意さえ得れば法律行為を単独でできた未成年者が(民法5条1項)、訴訟手続に関しては、法定代理人がする他なく、未成年者は法定代理人の同意を得たとしても、単独で訴訟を遂行することはできません(民事訴訟法31条本文)。
これは、訴訟が実体法上の契約等よりも複雑な判断能力を求められるからです。ところが、人事訴訟の場合、民法の制限行為能力者制度の適用が排除されています(人事訴訟法13条1項)。これは、人事訴訟については、離婚、離縁、親子関係等身分関係に関わる問題であるため、できるだけ、当事者本人に決めさせるべきとの考え方があるのです。もっとも、裁判長は、制限行為能力者が訴訟行為をしようとする場合、必要と認めれば、弁護士を訴訟代理人に選任することができます(人事訴訟法13条2項3項)。
また、人事に関する訴訟といえども、意思能力がない者に手続の進行や意思決定をさせるわけにはいきません。そこで、成年被後見人の人事に関する訴訟の場合、成年後見人が原告又は被告という当事者になるのです(人事訴訟法14条1項)。
次に、通常の訴訟においては、訴えの変更や反訴が一定の要件を満たす場合にのみ認められますが(民事訴訟法143条1項、146条1項)、人事訴訟では、控訴審の口頭弁論終結に至るまで、何らの制限なく、行うことができます(人事訴訟法18条)。これは、人事に関する紛争は、できる限り、一括して解決することが望ましいからです。
また、人事訴訟においては、民事訴訟の大原則である弁論主義に関する規定が排除されます。したがって、自白や、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解等の規定の適用がなく(人事訴訟法19条)、裁判所は、当事者が提出した証拠にとらわれずに、当事者の主張しない事実すら認定できるわけです(人事訴訟法20条)。このため、当事者間に争いがないからといって、その争いのない事実を前提に考えていけば足りるとは、必ずしもいえなくなるのです。
そして、人事訴訟の判決は、それが認容であると棄却であるとを問わず、第三者に対してもその効力が及びます(人事訴訟法24条1項 対世効)。
また、人事訴訟の判決が確定した後は、その訴訟の中で、訴えの変更や反訴により主張できた事実に基づいて、原告や被告が同一の身分関係に関する人事訴訟を提起することは許されなくなります(人事訴訟法25条)。例えば、離婚の訴えの棄却判決が確定した後、婚姻無効の訴え提起等はできなくなるわけです。